吹きガラス三原則  その3

ついに吹きガラス三原則もその3までやって来ました。
今回で完結します。
ちなみに、吹きガラス三原則の

その1は Don't Look . Feel !
その2は Be Cool!. So ,Hot.  でした。

それでは、その3 Stay Rolling! の解説です。

 「ロックするのは簡単だ!ロールするのが難しい」
                       by キース・リチャーズ

吹きガラス三原則の中でも 「Stay Rolling!」が最も、説明することが困難で、教室では多くの時間を費やします。
職人の世界では「見て覚えろ!」と言ってしまえるのですが、教室となると話が違ってきます。
自分としては職人的な領域に踏み込もことになっても、レッスンはサービス業であると心得ておりますので、デモを見せてそれでおしまいというわけにはいきません。
作業の折々に触れて様々な角度から説明し、イラストを交えて説明するなどを試みていますが、やはり感覚的な部分を言語化するのは容易なことではありません。

そこで、今回はこの吹きガラスで必要とされる感覚をジャズの世界で語られる「スイング」というジャズ特有のリズム感に例えて解説したいと思います。
まず、ジャズ通の方々の意見では、スイングこそジャズの本質であり、音楽的に優れているかどうかはスイングしているかどうかで判断できると言っても過言ではないらしい??です。
「スイング ガールズ」なんて映画もありましたね。
「スイング」とは文字通りだと、揺れる、振れるという意味合いですが、ジャズの世界では身体が揺れるような効果を持つ心地よい疾走感という表現をされたりします。

ここからが難解な部分になるのですが、単に楽譜を正確に演奏できたり、即興で演奏できたりしただけではスイングしているとは呼ばないそうです。極端な表現をすると、ジャズとは演奏スタイルであり、楽曲ではないということです。
ここで、またまた個人的なガラス制作現場の声に置き換えると、
形は作業理念の投影でありまして、表面的なノリや勢いで作られるものではありません。
いくら手順やデザインを真似たとしても、達人が吹いたガラスと比べてみると結果的には似て非なるものになりがちです。形状のみを求めるのならば、「型吹きでいいんじゃないですかね〜?」と常々思っています。
柔らかなうねりの中に中心軸が一本 ビシッィィ! と走っているのが宙吹きガラスの真髄であります。
黒人でなければ、スイングできないという行き過ぎた意見もあるようですが、わたしの希望的な気持ちとしては・・・

言語に変換できない遺伝的もしくは民族意識に基づく感覚的エッセンスも、努力によって技術や理論に落とし込めるはずだと思っています。
選ばれた人間にしか習得できない技ならば、教室を続けてゆくことはできません。ただでさえ、吹きガラスは特殊な世界だと思われている傾向があるようなので、なんとかこの部分を広く一般の方にも伝えてゆきたいという野心炎を抱いています。

 スイングを表現したものをネットでひろってみると・・・(以下抜粋)

 「スピードが点を線に変える」

 「リズムを数えるときは、1つの円を描くイメージをしてみてください。円の大きさは、曲の最初から最後まで変わることなく一定ですが、円を描く線のスピードが速くなったり、遅くなったりします。そう捉えられるようになれば、リズムが走ったり、もたったりしなくなります。」

 といった描写を見つけました。これらはまさに、吹きガラスの作業時における最重要項目そのままです。

 吹きガラス用に少し、描写を変えると、∞無限大の形をしたコースをレーシングバイクで走行する情景をイメージしてください。
速いタイムを競うだけならアクセルとブレーキを最大限に活用しますが、より滑らかに、そして、燃費良く、ブレーキを使うことなく走行することを意図した場合にどういった条件が必要になるでしょうか?
まず、均一なスピードでの走行ではなくなる筈です。コーナーでは遠心力がかかるからです。
また、急激なスピード変化も燃費を悪くしますし、耐久レースならタイヤ交換の時期を早めます。
レーサー自身が体重を左右にシフトさせることで、マシンの負担を軽減させ、コーナーでのリスクを軽減させることに繋がったりします。

こうした、緻密なコース設定で結果は大幅に変えられるのは吹きガラスの作業にも通じるところではないかと思います。
バランス感覚やリズム、手順や作業工程に合わせた道具の準備やその配置にいたるまで、細かい配慮が必要になります。
それを、一言で「センス」という表現で切り捨てることはできません。

絶えず動き続ける一瞬のうねりの刹那にも揺らぐことのない確信が宿る動作を心掛けたいものです。
それを Stay Rolling ! という言葉に込めました。