吹きガラス三原則  その2

吹きガラス三原則 第2弾 Be Cool!. So ,Hot.です。

まずは前回のおさらいです。第一弾はDon't Look . Feel !でした。「目からの視覚的な情報よりも、手先の感触を優先し、竿の回転軸を俯瞰的にラインとして把握しましょう。」という話でした。
まあ、当たり前と言えば当たり前の話なのですが、だからこそ、盲点になりやすいという言い方もできるわけです。その重要性は改めて語るまでもないと思います。

 それでは「Be Cool!. So ,Hot.」の話を進めていきましょう。
CoolHotという相反する意味合いの表現を敢えて入れてみました。
一言で表現すれば「焼き位置と焼き加減のコントロール」です。

よくあるパターンの例としましては竿元のぐらぐら加減で焼け具合を良しと判断し、ベンチに戻ってしまうケース。
もう一つは、「これ以上はとにかく怖くて焼きたくありません〜◎☆§」という具合で早めにダルマから出てしまうという二つのケースです。
どちらも自分の感情的な判断と都合でガラスを焼いてしまっているという点では同じです。

改善策としては、先端部分中間部分、そして竿元部分の3分割
(便宜的に3つにしました。形状やパーツ数によっては増やしてください。)の温度分布に分けてそれぞれがグラデーションで徐々に焼け、徐々に冷めるといった具合
にゆるやかな温度変化をつけてあげます。
ある部分は真っ赤に焼け、ある部分はカチカチに冷めているという状態は好ましくありません。

その結果として・・・
* 竿元が割れたり、作業中にポンテが落ちたりします。
* 徐冷炉に入れる前のガラスの温度状態次第では徐冷が効かず、割れてしまうというケースも考えられます。
* 器の肉厚に段がつきやすくなるという形でも現れたりもします。

 細く、長いワイングラスのような形状の場合と、反対に器の丈が短く浅い、お鉢やお皿のような形状の場合と、
どちらの場合もシナリオ通りに作業を進めるためには温度分布をそれぞれの形状に合わせて最適に保つ必要があります。そしてそのためには相当の集中力と長年の観察が必要となります。

 基本的には、作業の順序は竿元から先端に向かって移動してください。
器の底の平面を作ってから、竿元をくくるという順番で作業を行うと2度手間になってしまう可能性があります。
ですから作業段階に合わせて温度分布も竿元から先端に向かってシフトしていけば良いのですが、稀に例外もあります。
デザイン上でのこだわりやガラスの形状、肉厚によっては作業手順、優先順位は多少変化してケースバイケースとなることもあります。

こういった部分の説明が教室では一番難しく、伝えにくいところになります。
料理で言えば、そば打ちの要領に例えられるかもしれません。
レシピはそば粉とお水だけです。ただしその分量のさじ加減に秘密があるのです。その日の天候や湿度やその他もろもろの環境の変化に応じて、バランスを加減するのはやはり職人技の極みと言えましょう。
カップで分量を量り、レンジでチンッ!というわけにはいきません。

ここまでが、ガラスの温度管理の側面からの解釈です。実はもう一つ、作り手の心構えに関してからの解釈もできます。
後半部は精神面での吹きガラスについてスポーツ心理学の話を交えてお伝えしたいと思います。

スパープレイが生み出される最高の集中状態をスポーツの世界では「ゾーン ZONE」と呼んでいます。
トップアスリートの人々やある分野を極めた人々が語る言葉には共通した感覚が語られる事があります。時間感覚と空間認識が変わるのが特徴です。「ピッチャーの投げた球の縫い目が見えた」という話や「打つべきパットのラインが光って見える。」という話もあるそうです。
そこまで特殊な状況を設定する必要はありませんが、誰しも楽しい時や集中している時には時間が短く感じられたり、勘が冴えていたりするものです。
それを訓練でコントロールすることができれば、素晴らしいことではないでしょうか?
めちゃくちゃハードな練習をする必要はありません。要点をかいつまんでお話しすると、まずはイメージです。

 多くの生徒さんは成功した時のイメージよりも失敗した時のイメージをより鮮明に記憶しています。
ガラスがぐらぐらし始めると、なぜか下を向けたくなる。下を向けていいはずはないのは分かっていてもなぜかそうしてしまうのです。
自転車を運転していて、「あ〜危ないっ!!」と心で叫びながらも、危険な方向へ吸い寄せられていってしまうのはなぜでしょう?

 それもたぶん、イメージの力だと思います。
絶対にやってはいけないことほど反転しやすく、想いとは全く逆の方向に行動は流されがちです。
だとしたら、成功するイメージを強化し、好ましくないイメージとすり替えることが大切です。

 

吹きガラス三原則の第一弾、Don't Look . Feel !では指先の感触や自分が設定したシナリオを優先しましょう。というお話をしたと思います。
イメージが難しい人は毎回 同じ動作、同じタイミングでその状況に対処することをお勧めします。
それが、自分が設定したシナリオになります。わたしはそれを
必勝パターンと呼んでいます。

それをすることで、イメージの導入部分を明確にします。音楽などが効果的だとされています。
その音楽を聴くことで、勝利への赤い絨毯がひかれる事になります。
まさに「パブロフの犬」状態です。どんなピンチでもそのお決まりのポーズから入ることでお馴染みのシナリオに書き換えられます。

 それが、「Be Cool! です。どんな状況でもパニックに陥ることなく冷静に対処しましょう。
ほとんどの場合、トラブルは突然やって来るわけではなく、原因ともいえる現象はもっと前から存在し、サインを送り続けています。
そして、どんなに自分にとって好ましくない最悪の状況であっても、高い確率で事前に予測が可能です。

しかも、自身の早期的な発見と対処でコントロールできるのだということを強調しておきたいと思います。
冷静になることで悲観的に状況を評価して、防戦一方にずるずる引きずられてしまうわけでは決してありません。むしろ情熱や闘志は衰えることなく、以前よりもたぎらせることができます。

Be Cool!と同時にSo ,Hot.も作り手の中で矛盾なく共存している状態が理想です。
冷静と情熱」どこかで聞いたフレーズですが、こういった相反する特性を同居させることが、良い結果を生むことに繋がると考えています。