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水銀
神経毒物
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米環境保護庁は1997年12月、米議会に水銀に関する研究報告書を提出した。報告書の第5巻は水銀と水銀化合物の健康影響にあてられており、吸収や代謝・体内分布・排泄、生物学的影響、脆弱な集団、量応答関係などを分析している[1]。ここでは報告書を中心にしてメチル水銀の影響を紹介する。
メチル水銀の吸収・分布・排泄[1]
● メチル水銀は消化器から急速に吸収される。
● 吸収されたメチル水銀は体全体に分布する。
● 血液脳関門や血液胎盤関門を容易に通過する。
● メチル水銀は体内で比較的安定で、人間で半減期は44〜80日と推定されている。
● 排泄は大便や尿・母乳を通じて起こることが知られている。
メチル水銀や無機水銀の主な標的は神経系や腎臓・発達中の胎児である。そのほかに影響を及ぼすと思われている器官や組織には、呼吸器や心血管系・消化器系・免疫系・生殖器系・血液などがある[1]。
● 発達中の胎児はメチル水銀被ばくに特に危険である。妊娠中にメチル水銀に被ばくした女性から生まれた子供は様々な神経学的な異常を示す。
○ 歩き始め時期の遅れ
○ 脳性麻痺
○ 筋トーヌスや深部腱反射の変化
○ 神経学的検査成績の低下
● 一般の人では、メチル水銀被ばくによって多様な中枢神経系への影響が知られている。
○ 運動失調
○ 感覚異常など。
影響を受けやすい集団では、一般集団以下の被ばくレベルで重度の悪影響が現れることがある[3]。
● 胎児では大人より5-10倍も敏感なことが知られており、過敏な原因は発達中の脳で起こっている神経細胞の分裂や分化・移動が影響を受けやすいこと、血液脳関門が未成熟であること、排泄の機構が欠如していることがあげられている。
● 新生児もメチル水銀被ばくに敏感である。メチル水銀や無機水銀が母乳中に排泄されるため、被ばくを受けている集団中の新生児は高い被ばくを受けると思われる。動物実験では、幼動物は成熟動物より脳に多くの水銀を保持することが知られている。これは、母乳から多くのメチル水銀を受け取り、排泄が低く、血液脳関門が未熟なためであると考えられている。
● 性差。メチル水銀に対する感受性に性差があることが知られているが、種や系統で異なる。水俣病に罹患した男女比は1.2:1であったが、死亡率は1.8:1で男性の死亡が多いことが知られている。しかし、これは摂取量に関連する可能性がある。
● 亜鉛・グルタチオン・抗酸化物質の欠乏。水銀は、活性酸素の発生増加や脂肪過酸化・カルシウム依存性蛋白分解・エンンドヌクレアーゼ活性・燐脂質加水分解の活性化を通じて組織に障害を起こす。亜鉛やグルタチオン・抗酸化物質の欠乏が水銀による障害を悪化させると考えられており、動物実験で水銀による障害を制限することが報告されている。
● 他の物質との相互作用。アルコール、アトラジン(除草剤)メチル水銀の毒性を強める。
メチル水銀の毒性は遅れて現れることがある[3]。
● メチル水銀を誕生から6.5〜7才までサルに投与した実験があるが、投与期間中には神経毒性の明らかな兆候は見られなかったが、投与中断6-7年後の13才になってから神経学的欠陥が明らかになった。
● 水俣でも被ばく終了後数年で新しく発病したり、症状が悪化したことが知られており、この場合も加齢に伴う要因が関連していると思われている。
メチル水銀は発癌性を持つ可能性があります。発癌性に関する調査や実験結果を表に示します。これらの結果は様々ですが、人間で肝臓癌や白血病との関連が示唆され、マウスでは腎臓の癌の発生が示されています。アメリカ環境保護庁では、メチル水銀を人間で癌を起こす可能性がある物質として、グループCに分類しています。
対照/
性当たりの数 |
被曝期間
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投与量
(mg/kg-day) |
影響・欠陥・BML
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参照
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人間・334人
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NS
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NS
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水俣病患者では癌の増加なし。欠陥:被曝レベルと対照群と未診断患者数不明 |
Tamashiro et al. 1984
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人間・412人
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NS
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NS
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水俣湾近くに住む男性で肝臓癌増加。欠陥:被曝地区ではアルコール摂取量とB型肝炎が多い
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Tamashiro et al. 1986
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人間・47人
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NS
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NS
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白血病患者毛髪中水銀の増加。しかし患者の平均水銀レベルは正常範囲。欠陥:メチル水銀源不明、他の危険因子や化学物質被曝不明
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Janicki et al. 1987
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アメリカ環境保護庁(1997)
動物
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被曝期間
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投与量
(mg/kg-day) |
影響・欠陥・BML
|
参照
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ラット
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2年
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0, 0.004,
0.02, |
癌は全群で同じ。欠陥:動物数が少ない。MTDに達しない。 |
Verschuuren et al. 1976 |
ラット
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130週
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0.011, 0.05, 0.28(M);0.014,0.064,0.34 (F) |
癌増加なし。
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Mitsumori et al. 1983, 1984
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マウス
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離乳から死ぬまで |
0, 0.19, 0.19
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癌発生増加なし。欠陥:組織検査がなされていない |
Mitchener
1975 |
マウス
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78週
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0, 1.6, 3.1
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低投与量で腎臓の腺腫と腺癌の増加。欠陥:生存率が低い。 |
Mitsumori et al. 1981 |
マウス
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104週
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0, 0.02, 0.03,0.11, 0.15, 0.6, 0.73
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0.73 mkg/g投与雄で腎臓の上皮の癌増加。浸潤性ではない。欠陥:MTDを超過している。 |
Hirano et al. 1986
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マウス
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2年
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0.03, 0.14, 0.69(M); 0.03,0.13, 0.6 (F) |
雄で腎臓の上皮の癌と腺腫。欠陥:多量投与雄でMTDを超過
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Mitsumori et al. 1990
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アメリカ環境保護庁(1997)
メチル水銀は神経系への影響が強いことが知られています。神経系以外への影響はあまり強いものではありませんが、注意すべきであるという報告があります。
腎障害は動物実験で確認されています。特に雄はメチル水銀による慢性腎障害に敏感であることが知られています。
循環器系(心臓と血管)へメチル水銀が影響をおよぼすことが報告されています。種子消毒をした時にメチル水銀を吸い込み、血圧上昇が見られた症例が報告されています。この症例では神経毒性も現れ、死亡しています。動物実験でも血圧や心拍数への影響が報告されています。
フィンランドのクオピオ大学のバータネンの研究グループは心臓血管の病気になったことがない42才から60才のフィンランド人男性1871人について、平均13.9年間の追跡研究を行った (Virtanen et al. 2005)。最も毛髪中水銀が少ない方から3分の 2 までのグループと比較して、最も毛髪中水銀量が多い方から3分の1までのグループ(2.03μg/g)は、冠状動脈の問題のリスクがが1.60倍、循環器病のリスクが1.68倍、冠状動脈疾患のリスクが 1.56倍、全ての原因による死亡のリスクが1.38倍であった。論文によると毛髪中の水銀が高いと、魚油中にあるドコサヘキサエン酸(DHA)とドコサペンタエン酸 (DPA) の循環器系に対する保護効果を低いものにするという。このグループは水銀含量の多い魚を常食するのは避けるべきだと勧告している。
Virtanen JK, Voutilainen S, Rissanen TH, Mursu J, Tuomainen T-P, Korhonen MJ, Valkonen V-P, Seppänen K, Laukkanen JA, T. Salonen JT. Mercury, fish oils, and risk of acute coronary events and cardiovascular disease, coronary heart disease, and all-cause mortality in men in Eastern Finland. Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. 25:228 (2005).
消化器系への影響は人間では報告されていませんが、マウスでは胃潰瘍の発生が報告されています。
免疫系への影響も動物実験で知られており、液性免疫や細胞性免疫に影響を与えることが報告されています。
生殖能力への影響は動物実験で示されています。また人間でもメチル水銀被ばくにより精液減少や性欲低下・不能などが起こることが報告されています。最近では海産物摂取による水銀被ばくと不妊との関連が香港の疫学研究で報告されています。
水銀の生殖毒性を参考にしてください。
この他に遺伝毒性があることも報告されています。
他の汚染物質との相互作用
環境は多くの化学物質によって汚染を受けています。魚介類などの摂取によってメチル水銀による人体汚染を受けますが、他の化学物質とメチル水銀の相互作用によって汚染の影響が強まることが報告されています。
除草剤のアトラジンとの相互作用により、メチル水銀による神経毒性の発現が早まることや、ビタミンC欠乏では神経毒性が強まること、逆にビタミンEが毒性を低下させることが報告されています。
アルコールはメチル水銀中毒を重くし、腎障害を起こしやすくすることが知られていますが、逆に発症時期を遅らせることも知られています。
水俣病
メチル水銀による公害として、熊本県の水俣や新潟県の阿賀野川の水俣病事件が知られています。この事件は大量のメチル水銀を含んだ魚を食べたために起こったと考えられています。
有機水銀は特に神経系を侵します。水俣病の急性激症例では手足の感覚異常や脱力・運動失調・構音障害(話がはっきりしない)・関節痛などが先ず起こります。次いで、けいれんや振戦・運動麻痺、最後に視力障害・意識混濁・精神錯乱がみられます。典型的症状として、感覚異常・運動失調・難聴・構音障害、視野狭窄・振戦などが見られます。
急性メチル水銀中毒の症状は体重50 kgの人で、25 mgが蓄積すると感覚障害が発生し、100 mgで典型的な症状が現れ、200 mgで死亡するといわれています。毛髪水銀値 50 ppm以上、血中水銀値 200 ppbで発症の危険があるとされています。慢性的な汚染の場合や胎児性水俣病ではこの値に疑問が出されています。
軽症や慢性水俣病では感覚障害だけの人から、少数の症状が組み合わさったものまで様々な症状が見られます。母親に重い障害を与えないのに胎児に重い障害を与えた例も発見されています。
イラクの事件
1971年、イラクでメチル水銀を使って消毒した種をパンにして食べ、中毒が起こりました。成人や子どもにも中毒が起こりましたが、妊娠中にパンを食べた妊婦から生まれた子どもの感受性が最も高いことがわかりました。大人では感覚異常が16〜30日の潜伏期後に起こりました。食べた量が多ければ多いほど症状は激しく現れました。最も強い被曝を受けた人では、運動失調や視覚低下・構音障害・難聴が見らています。胎児期に被曝した幼児では、脳性麻痺や筋肉のトーヌス(緊張)と腱反射異常・発育の遅れが見られました。
上記の2つの事件は公害あるいは事故で高度の被曝を受けた例ですが、高度被曝を受けなくても影響が現れたという研究が増えています。その一部を紹介します。
カナダのインデアンでの研究
カナダのケベック州北部に住むクリーインデアンで調査が行われ、245人の幼児のメチル水銀被曝と神経の状態が調べられました。最も多く見られた異常は深部腱反射の遅れで、男子で11.4%、女子で12.2%に見られました。男児では腱の反射や筋肉のトーヌスの異常と母親の毛髪中の水銀濃度との間に関係があることがわかりました。女子では有意な関係は認められていません。最も強い被曝(毛髪中水銀13.0-23.9 ppm)を受けた母親から生まれた子どもに影響が強く見られています。影響は、母親の毛髪中水銀が10 ppm増加するごとに7倍になることがわかりました。
1998年、カナダのケベック大学のビューターとエドワーズは、クリーインデアンで、メチル水銀と振戦との関連を調べ、報告しています。
振戦とは体の互いに反する筋肉が交互に収縮するときにふるえとして現れる不随意運動です。静止状態の時に出現する振戦を静止時振戦、活動中に現れるものを活動時振戦といいます。活動時振戦の中で運動をする時現れるものを運動時振戦、ある姿勢を保つときに現れるものを姿勢時振戦と呼びます。断続的かつ不規則な不随意運動はミオクローヌスと呼ばれます。
メチル水銀を多く摂取している人では、指のミオクローヌスや指のふるえが見られ、運動後には静止時振戦がなどの微妙な影響が見られることがわかりました。
ニージーランドの研究
ニュージーランドで、メチル水銀に胎内で被曝した子どもの発達の調査が行われました。良く魚を食べる11,000人の母親を先に調べました。その内1000人は妊娠中に週3回魚を食べていました。妊娠中の被曝は毛髪で調べました。強い被曝を受けた母親の毛髪中平均水銀濃度は8.8 ppmで、対照としたグループでは1.9 ppmでした。発達の遅れは、強い被曝を受けた母親から生まれた子どもで52%、対照では17%でした。この母親たちの毛髪中の水銀濃度は、日本やイラクで発達の遅れが生じた子どもの母親の値より低いことがわかりました。発達の遅れは精巧な運動や言語などの面でも見られましたが、統計的に有意ではありませんでした。強い被曝を受けた場合、出生時の体重が少なく、より未熟な状態で生まれることもわかりました。その後の研究でも妊娠中の毛髪中水銀量が多い場合は検査成績が良くないことがわかっています。
ブラジル・アマゾンの研究
アマゾン川では金の採掘がされており、金の精錬に水銀を使っています。水銀の約半分は川に流されていると推定されています。採掘されているところから 200 kmほど離れた村で調査が行われました。毛髪中の水銀濃度は5.6〜38.4 ppmの範囲で、メチル水銀はその72.2%〜93.3% でした。調査の結果、 汚染が強いと手先の器用さが劣ることが女性でわかりました。男女とも汚染が強いと色彩の識別能力が低下すること、視野狭窄などが見られたことが報告されています。
デンマークのファロイ諸島では漁業が盛んで、調査捕鯨も行っています。海産物を多食し、調査捕鯨で得た鯨肉もよく食べます。このためにメチル水銀やPCB汚染が危惧されています。
この島でメチル水銀やPCB汚染と子どもの知能や神経の発達に関する研究が行われました。1986年〜1987年に生まれた子どもを対象とし、7年後に知能検査や神経学的検査をしました。
運動機能や言語記憶、注意集中など20項目の検査が実施されました。この結果、約半数の検査項目で異常が見られ、母親の毛髪中水銀が多ければ多いほど異常が現れることがわかりました。この研究グループでは、母親の毛髪中水銀濃度が10 ppm以下でも影響が出る可能性を指摘しています。
魚の摂取頻度と体内の水銀濃度
次の表に魚の摂取頻度と毛髪中水銀量の関連を示します。影響を受けない量としてアメリカ環境保護庁は毛髪中水銀濃度として11 ppm (μg/g)を考えています。 魚を食べる頻度が多いと、血液や毛髪中の水銀濃度が高くなる傾向がわかります。
日本のように水銀濃度の高いマグロを多食している場合は、体内の水銀レベルが高くなる可能性があります。
魚摂取と体内水銀濃度
| 媒体 |
水銀濃度 |
出典 |
全血
魚消費
食べない
週2回
週2-4回
週4回以上 |
1-8 μg/L
2
2.0
4.8
8.4
44.4 |
WHO(1990)
Nordberg et al.(1992)
Brune (1994))
|
| 尿 |
4-5 |
WHO(1990) |
毛髪
魚消費
月一回
2週に一回
週に1回
1日1回 |
2 μg/g
1.4
1.9
2.5
11.6 |
WHO (1990)
Airey (1983)
|
WHO・FAOの基準
WHOとFAOは、2003年6月に、メチル水銀の一週間の摂取基準を、体重 1 kg当たり1.6 µgに改正した。これは、発達中の胎児を守るためで、以前の基準、3.3 µg/kg/週の約半分である。
EPAは胎児の神経系への影響を考慮して、0.0001 mg/kg/日(=0.1μg/日)というメチル水銀の経口摂取基準量を決めました。この基準値をもとに私たちが摂取しても安全な魚の量を考えてみましょう。
50 kgの人が摂取しても安全と考えられる量は、体重×摂取基準量で与えられます。つまり
50 kg×0.0001 mg/kg/日
=0.005 mg/kg/日(5μg/kg/日)
となります。
日本で調査された海水魚介類の平均的メチル水銀濃度は0.13 ppmですので、1日に食べてもEPAの基準を越えないためには、
5÷0.13≒38 g
となります。これでは小魚1尾が精一杯です。特に、マカジキのような高濃度の魚では、1週間に約50gを食べても基準を超過することになります。
厚生省は、昭和48年から魚介類中の水銀の暫定的基準値を定めました。しかし、これは総水銀0.4ppmを超え、かつメチル水銀0.3ppmを超えるものとされています。両方の値が越えなければ、どちらかが基準を越えても、基準以内ということになります。さらに、マグロ類(マグロ、カジキ及びカツオ)などの常に高濃度の水銀を含んでいる魚種や河川からとった魚介類(湖沼産の魚介類は含まない)・一部の深海生魚介類を除くとされています。
EPAの基準値をもとに日本の暫定値を考えてみましょう。先ほど計算した体重50 kgの人の摂取基準量5μg/kg/日を暫定基準値 0.3 μg/gで割ると、約17 gとなります。これで安全が守られるのでしょうか。
私たちは、どのような魚にメチル水銀が多いかを考え、自己防衛しながら魚を食べる必要があります。
水銀、特にメチル水銀は魚に濃縮されている。メチル水銀は神経系を主な標的としており、発達中の神経系は特に影響を受けやすい。そのメカニズムは、メチル水銀が細胞内のマイクロチューブル形性を阻害することや、細胞周期(分裂)に干渉することと言われている。
魚に濃縮されたメチル水銀による発達中の子供(出生前を含めて)を守るために、米国やカナダでは魚消費に対する勧告がでている。ここでは、米国の食品医薬品局と環境保護庁、州の状況報告、カナダの状況報告、英国の魚摂取に関する勧告を紹介する。
米国食品医薬品局
米食品医薬品局 (FDA) は、妊婦と出産可能年齢の女性以外の人に対して、1 ppm以上の水銀を含むメカジキのような魚を食べるのは、週に7オンス(約1食分)に制限すべきだと勧告していました。
2001年1月に米食品医薬品局は、発達中の子供の神経系を守るために、妊婦と出産可能年齢の女性にメカジキやサメなどの高レベルのメチル水銀を含む魚 4 種類を食べないように勧告しています。また、授乳中の母親と幼い子供にも食べないことを勧めています。
同時に、他の市販魚も 1 週間に約 360 g 以上食べないようにすることも勧告しています。
米国環境保護庁
米環境保護庁(EPA)も 2001 年1月に、発達中の脳と神経系を守るため、妊婦や妊娠する可能性のある女性・授乳中の母親・幼い子供に、淡水域で捕獲した魚の摂取を週に 1 食に制限するように勧告をしています。それによると、淡水魚はに制限することを勧めています。
米国環境保護庁と食品医薬品局による合同注意報案
食品医薬品局及び環境保護庁は2001年にそれぞれ魚摂取に関する注意報を出していたが、リクレーション及び漁業で獲られた魚からの妊婦や子ども・授乳中の母親などのメチル水銀摂取を制限するために、合同で魚摂取の注意報案(勧告)を出している。詳細は勧告案のFDA・EPAのメチル水銀(MeHg)消費者注意報案概要を参照してください。
→ FDA・EPAのメチル水銀(MeHg)消費者注意報案概要
米国の魚類野生動物状況報告 Fish and Wildlife Advisories
米国の諸州は主に魚に対して状況報告(助言)を出している。目的は遊漁者や貧困者などの一般人や妊婦や授乳中の母親・子供などの敏感な集団を、高濃度の化学物質汚染から守ることである。
状況報告には5つの種類がある(1998年の場所数)。
● 一般人が消費しない。汚染が一般人の健康に危険を与える場合(532か所)。
● 敏感な集団は消費しない。汚染が敏感な集団の健康に危険を与える場合(1211か所)。
● 一般人の消費を制限する。汚染が激しくない場合(2062か所)。
● 敏感な集団の消費を制限する。汚染が激しくない場合(1595か所)。
● 漁獲禁止(50か所)。
状況報告が出されている化学物質は 46 種類にのぼるが、主なものは次のものである(1998年の場所数)。
○ 水銀(1931か所)
○ PCB(679か所)
○ ダイオキシン(679か所)
○ DDTとその分解物(34か所)
カナダの魚状況報告
カナダでも米国に似た魚状況報告を出している。カナダの状況報告の数は、1997年で2625か所に出されている。対象汚染物質には5種類がある(1997年の場所数)
○ 水銀(2572か所)
○ PCB(59か所)
○ ダイオキシン(68か所)
○ トキサフェン(農薬;68か所)
○ マイレックス(農薬;9 か所)
英国の魚摂取に関する勧告
英国では、食品基準庁が、妊婦及び妊娠しようと思っている女性、幼児、16才以下の子供は、サメとメカジキ、マカジキを食べるのを避けるべきであると勧告した。[英国
食料基準庁報道発表を見よ]2003年2月には、妊婦及び授乳中の母親・妊娠しようと思っている女性に、生マグロ及びツナ缶の消費を制限するように勧告した[英国
食料食料基準庁報道発表2003を見よ]。
これは、胎児や幼児、16才以下の子どもが、メチル水銀により神経行動学的影響を受けることを懸念したためである。大人も予防的見地から、これらの魚のどれでも、週に一食以上食べない用に勧告されている。
魚中の水銀レベルは、サメで1.006-2.200 mg/kg、メカジキで 0.153-2.706 mg/kg、マカジキで 0.409-2.204 mg /kgの値が報告されている。マグロでも、0.141-1.500 mg/kgと比較的高い値が報告されている。
日本の勧告
2003年6月に厚生労働省は「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会」の「魚介類に含まれる水銀に関する安全確保についての審議結果」に基づいて、不十分ながら魚摂取に対する勧告をした。
この中で、妊婦等への指導等をするように、関係部局に通知した。その内容は、「望ましい」目安として、1 食に60-80 g 摂取するとして、次の通りである。
・ バンドウイルカ;2 か月に1回以下
・ ツチクジラ、コビレゴンドウ、マッコウクジラ、サメ:週に1回以下
・ メカジキ、キンメダイ:週に2回以下
これに対して、水産関連業界の反発は強い。特に、キンメダイ漁業への打撃が各種報道で伝えられている。しかし、この件に関しては、なぜもっと早く規制あるいは勧告をしないのかという疑問があり、またマグロ類の規制も必要であるだろう。
参考
薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会乳肉水産食品・毒性合同部会(平成15年6月3日開催)の検討結果概要等について
厚生労働省報道発表 2003.6.3
人為的に放出している水銀の量は、自然に発生する水銀量と同じかあるいはやや多いと推定されています。人為的な水銀発生源は水銀を使用する工場や廃棄物焼却炉です。ここでは触れませんでしたが、工場や焼却炉から放出される無機水銀にも強い毒性があります。水銀はいずれは河川に流入し、海に流れ込みます。
水の中や土壌中で細菌などにより、水銀はメチル水銀などの有機水銀に変えられます。それをプランクトンなどが濃縮し、食物連鎖を通っていくたびに濃縮され、マグロなどでは高い濃度のメチル水銀が検出されています。
金属は分解されることがありません。必要なことは、環境中への水銀の投入をしないことです。廃棄物の安易な焼却や最終処分は環境への投入量を増やします。
自己防衛をしながら、水銀使用量の削減を進めて行く必要があります。電池や蛍光灯を購入しようと考えているとき、少し立ち止まって考えてください。かわりになるものはあります。水銀やカドミウム・マンガンを環境中に放出するのを減らすため、充電式のニッケル水素電池等の使用も可能です。最後にアメリカの一般廃棄物中では、特に電池が水銀発生源となっていることがわかっています。
参考文献
1. U.S. EPA, MERCURY STUDY REPORT TO CONGRESS (1997).
最終更新 2005.1.6
更新 2003.3.20 渡部和男