活動における予防原則
 
ハンドブック
 
第一版
 
科学と環境保健ネットワークのために
 
 
THE PRECAUTIONARY PRINCIPLE IN ACTION
A HANDBOOK
First Edition
 
Written for the Science and Environmental Health Network
 
Joel Tickner - Lowell Center for Sustainable Production
Carolyn Raffensperger - Science and Environmental Health Network
and Nancy Myers
 
 
目次
 
I.  はじめに
II.  予防原則の歴史
III. 予防の要素
IV.  予防の方法
V.  予防行動の例
VI.  予防の発動:過程の流れ
VII.  ダイオキシン
VIII.  不確実性の理解
IX.  リスクアセスメント又は予防原則
X.  批判への答え
XI.  文献
XII.  付録 ウイングスプレッド宣言、法律と条約中のことば
XIII.  連絡先
 
 
 
T.はじめに
 
ある活動が、環境や人間の健康に脅威を生じるならば、科学的に一部の因果関係が十分に確立していなくとも、予防的方策をとるべきである。19981月、予防原則に関するウイングスプレット宣言より
 
長年、環境と一般人の健康に関する運動は、因果関係が科学的に不確実であることに直面し、健康や環境を守る方法を見つけるために、苦労して進んできた。通常、一般人には、特定の活動や物質が危険であることを証明する義務があり、これに対して、潜在的に危険な活動をする者やそれらの活動から産まれる物は、有罪と証明されるまで無罪と考えられてきた。化学物質や危険な活動・会社は、市民や環境より権利があるように思われることが多かった。
 
健康や環境を守るための運動で、科学的証明の義務は巨大な障壁となっている。危害の重大な証拠を証明できた後にのみ、害を防ぐ行動を起こすのが普通である。その時点では遅すぎるだろう。普通、産業や政府当局は、有機農業や無毒な製品を推進したり、危険な化学物質全体を廃止するというよりは、一時に一つ、単一の農薬や化学物質に関して何らかの処置を講じることによって、危険に対して策が講じられる。市民グループによる特定活動の中止要求が、経験や観察・厳密な科学的証拠でないものに基づく時、感情的であるとかヒステリックであると非難される。
 
この障壁に打ち勝つために、提唱者は倫理的な力と科学的厳密性をもった、意志決定と行動手段が必要である。世界中の環境に関する合意と環境活動の重要な側面となってきた予防原則は、一般人と意志決定者に、環境と一般人の健康問題に対する強力で常識的な方法を提供する。このハンドブックは、不確実さに直面した時、予防的な意志決定をする場合や一般人の健康と環境を守る行動をする場合に、どのようにして使うことができるかを述べる。
 
この概念の包括的提示は新しいが、予防は長年市民活動家が発展させてきた概念である。私たち、著者は、あなたが、これらの概念を使い、予防原則の次章を私たちとともに書くことに招待する。
 
私たちは世界史の刺激的な接点にいる。一方で、私たちは人間の健康と生活を支える環境に対する前代未聞の脅威に直面している。他方で、私たちにはことを行う方法を根本的に変える機会がある。私たちは、「いつものような仕事」を受け入れる必要はない。予防は、環境劣化を避けるために使うことができる指針となる原理である。
 
U.予防原則の歴史
 
予防原則の最も重要な表現の一つは、アジェンダ21*としても知られている、1992年環境と開発に関する国連会議**が出したリオ宣言***である。宣言は次のように述べている。
* Agenda 21
**United Nations Conference on Environment and Development
*** Rio Declaration
 
 環境を守るために、予防方法は各国が能力に応じて広く採用すべきである。重大なあるいは回復不能な損害の脅威がある場合、十分な科学的確実性に欠けることを、環境劣化を防ぐための費用効果的方策を先延ばしにする理由として、使うべきではない。
 
米国はリオ宣言に署名し、批准したので、米国は予防原則を使うことに拘束される。組織者が知るべき重要なことは、米国が予防原則に従うかどうかの問題ではなく、どのように使うかという問題である。
【訳注:日本も署名している】
 
予防原則は、その起源をドイツのVorsorge*あるいは用心に起源を持つ。この原理の初期概念の核心に、社会は、潜在的に有害な活動を阻止しながら、注意深い先進的計画により、環境の損害を避けるように努めるべきだという信念があった。Vorsorgenprinzip**は、1970年代初期にドイツ環境法の基本的原理として発展し(経済的実行可能性の原理と調和されて)、酸性雨や地球温暖化・北海汚染に取り組むため、力強い政策の実施を正当化するために、頼られてきた。また、ドイツ国内の強い環境産業の発達を導いた。
* ドイツ語であらかじめする配慮の意味
** ドイツ語で用心原則、あるいはあらかじめ配慮する原則
 
予防原則は、それ以来、国際政策声明や、科学的に不確実で、高度の利害関係のある環境中の懸念を取り扱う会議、持続可能な発展のための国家戦略の中で活躍してきた。この原則は、1984年に北海保護に関する国際会議*で導入された。この会議に続き、予防原則は、持続可能な発展に関するベルゲン宣言**や欧州連合のマーストリヒト条約***・バルセロナ会議****・地球気候変化会議***などの、多数の国際会議や合意に取り込まれた(付録を見よ)。国家レベルで、スウェーデンとデンマークは、予防原則や、有害物質を入れ替えるようなその他の原則を、環境及び一般人の健康政策の指針としている。
* First International Conference on Protection of the North Sea
** Bergen declaration on sustainable development
*** Maastricht Treaty on the European Union
**** Barcelona Convention
***** Global Climate Change Convention
 
米国内で、予防原則は法律や政策の中で明確に述べられていない。しかし、一部の法律は予防的性質を持っており、予防原則は米国内の、多くの初期環境法の底にあった。
 
国家環境政策法は、連邦の補助を受け、重大な害を環境に与えると思われるあらゆる計画は、安全なかわりの方法はないことを証明しながら、環境影響研究を実施することを求ている。
 
清浄水法*は、「米国の水の化学的、物理的、生物的な健全さを回復維持する」ために、厳しい目標を設定した。
* Clean Water Act
 
職業安全衛生法*(OSHA)は、「米国内の労働するあらゆる男女に、可能な限り安全で健康的な労働条件を確保するために」考え出された。
* Occupational Safety and Health Act
 
OSHA発癌(はつがん)物質基準草案(いまだ実行されていない)は、職場で使用される化学物質が動物で癌を発生させることが疑われた場合は常に、予防行動をとることを求めている。初期の判決は、環境保護局に、相当の因果関係の証拠が集まる前でさえ、害を防ぐために行動できるかなりの自由度を与えている。
 
さらに最近、1990年の汚染防止法は、米国の環境計画の中で、防止を最優先にしている。その他に、持続可能な発展に関する大統領会議*は、「科学的不確実性に直面しても、人間の健康や環境に対する害の可能性が深刻あるいは回復できないと考えられる場合、社会はリスクを避けるために合理的な行動をすべきである」という、中心的信念の形で予防原則に支持を表明している。1996年、米公衆衛生学会**は、決議(9606号)「職場に関する予防原則と化学物質被ばく基準***」を通過させた。決議は、あらゆる化学物質は、その毒性の程度が科学的に分かるまで、潜在的に危険と考えることによって、挙証責任を転嫁し、厳しい予防的科学物質被ばく限度を設定などの、予防的アプローチの実施が必要であるこを認識していた。
* President's Council on Sustainable Development
** American Public Health Association
*** The Precautionary Principle and Chemical Exposure Standards for the Workplace
 
しかし、米国は国際条約やほかの声明の中で予防原則を受け入れているにもかかわらず、この原則を実行する努力をほとんどしていない。一部の例で、特にヨーロッパのような場所で、貿易と事前策をとった法律などに、米政府は他国政府の予防活動に反対して、活発に働きかけをしている。このことは、ごく最近、子供の塩ビ製玩具(がんぐ)中のフタル酸や牛肉のホルモン・廃電気電子機器回収法・遺伝子操作食品で起きている。この働きかけは、他国で予防原則の効用の土台を崩す恐れがあり、それは結局は、他国が米国に予防原則を発動するように影響を及ぼすことができる圧力に影響するだろう。幸運なことに、フタル酸の場合、合衆国の干渉なしに、子供の健康を守るためにヨーロッパ諸国が予防行動をとることを認めるべきだと述べた手紙を、ゴア副大統領が最近米通商代表に書いた。
 
州や連邦レベルで、環境や一般人の健康に関する日常的な意志決定レベルまでに、予防原則を導くための、米国内で最初の大きな努力の成果は、ウイスコンシン州ラシーンにあるジョンソン財団本部ウイングスプレッドで行われた、活動家や学者・科学者・法律家の1998年1月会議である。科学と環境保健ネットワーク(SEHN)が招集した時、参加者は予防原則を実行する方法と実行のための障害について議論した。
* Science and Environmental Health Network
 
ウイングスプレッドでの予防原則の定義(付録を見よ)には3つの要素がある。害の脅威・科学的不確実性・防止的予防行動。予防原則を適用する時期を知るためのリトマス試験紙は、害の脅威と科学的不確実性である。一部の人は、害の脅威は深刻か回復不能でなければならないと述べたが、ほかの人は、その考えは比較的小さな侵害の集積的影響を考慮していないと、指摘した。
 
鉛と子供の健康の場合のように、因果関係が明らかならば、行動はもやや予防ではなく、防止であろう。本質において、予防原則は、研究中に、あるいは研究なしに疑わしい活動を続けるというよりは、科学的に確実でない場合、ある活動や物質に対して行動するための理論的根拠である。
 
どのレベルの害が受け入れるかと問うかわりに、予防的アプローチは次のようにたずねる。どのくらい多くの汚染を避けることができるか?この製品や活動のかわりは何か、そしてそれは安全か?この活動は必要でさえあるのか?予防原則はリスクよりも選択肢や解決に焦点をあてる。予防原則は、ある活動を始めた者に、より環境に敏感なやり方でどのように振る舞うかという、基本的疑問を向けさせる。また、予防原則は、新しい活動に関する決定は、注意深く潜在的な結末に照らして行いながら、新技術に対して「speed bump」として役立つ。
 
 
V.予防の要素
 
予防原則の底流にある主題は、極度の不確実性と無知識に直面して意志決定をすることは、政策と政治的考慮の問題であるということである。科学は決定することに情報を与えることができるが、「独立した」あるいは「健全な」科学が因果関係の困難な問題を解決できると考えるのは馬鹿げている。このように、不確実に直面してさらに研究することや何もしないことは、ちょうど予防行動がそうであるように、方針の決定であり、科学的なものではない。
 
環境や一般人の健康に関する意志決定に対する予防的アプローチには、次の特殊な要素がある。
 
因果関係が科学的に確実である以前に予防行動をとる。予防原則を明言している国際条約の大部分は、不確実性の下で行う国に対する一般的な義務として、予防原則を取り入れている。このことは害を防止するために説明義務のメカニズムを提供する。一般的義務(特別な法律がなくてもある種の習慣で行う義務)は米国では一般的でない。例えば、職業安全衛生法は、雇用者は、「死亡や深刻な肉体的傷害を起こし、あるいは起こすと思われる危険がない、従業員雇用と雇用場所を提供する」ことを、求めている。
 
目標設定。予防原則は、過誤や偏(かたよ)りによって悩まされる将来のシナリオとリスクアセスメントに基づくよりは、むしろ良く定義された目標に基づく計画策定を奨励する(以下の、リスクアセスメントの議論を見よ)。例えば、スウェーデンは、2007年までに製品中の残留性及び生物濃縮性物質を、段階的に廃止する目標を設定している。スウェーデン政府は、現在、この目標を達成する方法を決定するために、様々な利害関係者を巻き込んでいる。さらに通常の不確実な将来の「予測」と対照して「backcasting」と呼ぶ時、この型の計画策定は、誤算がより少なく、革新的解決を促す。
 
かわりの方法を探し出し、評価する。どの汚染レベルが安全で、経済的に最善かを問うのではなく、予防的アプローチは害を減す、あるいは除去する方法を問い、提案された活動をなくすことも含めて、目標を達成するあらゆる可能な手段を考慮する。いうまでもなく、潜在的に危険な活動に対して提案したかわりの方法は、その活動自体と同じ位厳しく綿密に調べなければならない。
 
挙証責任の転換。ある活動の提唱者は、自分の活動が人間の健康や生態系に過度の害を生じないことを証明すべきである。活動し、害を防止するための権力や管理・財源を持つものが、責任を担うべきである。責任にはいくつかの要素がある。
 
財政的責任。 規則のみで、政府の一部や疑問のある活動の提唱者を予防行動を駆り立てるとは思われない。しかし、活動によって起こりうる、最悪の結果に対する保証債券や損害に対する負債の要求のような、経済的誘因は、会社が影響をどうして防ぐかを考えることを促進するだろう。このような保証債は、開発計画による損害を最小限にするために、既に製造プロジェクトやオーストラリアで用いられている。
 
モニターや理解・研究・情報伝達・活動に対する義務。予防的意志決定の仕組みの下で、潜在的に有害な活動を行うものは、影響を日常的にモニターし(可能なら第三者が検証をして)、潜在的影響が分かった場合、一般人と当局に情報を伝え、その知識に基づいて行動するだろう。無知と不確実性は、もはや被害を防止するための行動を先のばしにする理由にはならない(以下の不確実性の考察を見よ)。
 
より民主的で完全な意志決定基準と方法の開発。予防原則は、決定に関する思考と、不確実性に直面して、科学的証拠とほかの証拠の重さをはかることに関する新しい思考方法を求める。新しい新規及び既存の活動に関する、この型の予防的決定の流れは、後の章で述べる。因果関係の困難な問題は、本質において政策決定であるので、潜在的に影響を受ける一般人が意志決定過程に深く関与しなければならない。このように、意志決定に一般人をより深く関与させる構造が、予防的アプローチの下で求められる。
 
W.予防の方法
 
可能な場合、潜在的に有害な活動の計画段階で、最大の影響から安全にするために、予防行動をとるべきである。予防原則は、予防を行うための防止法が実施されなければ、その目的を果たさない。さもなければ、程度が低くとも、リスクが変化するか、問題が残るだろう。
 
しかし、予防行動の幅は弱いものから(問題の集中的研究)から強いもの(特定活動の禁止や段階的廃止)まで、考えることができる。予防方針を実施するために多数の手段が世界中で使われている。
 
禁止と段階的廃止。禁止や段階的廃止は最も強い予防行動であると考えられている。少なくとも80か国は、少数の非常に有毒な物質の生産や使用を禁じている。北欧諸国は、一般人の健康戦略として、禁止措置(そち)の採用を特に進めている。これらの諸国は、禁止と段階的廃止を、非常に有毒な化学物質や危険な活動による損傷や病気のリスクをなくす唯一の方法であると、考えている。カドミウムと水銀を含む数種の化学物質は、現在、スウェーデンでは段階的に禁止されている。国際合同委員会(後の考察を見よ)は、五大湖地域で産業用塩素系化学物質の段階的廃止を勧告している。
* International Joint Commission
 
クリーンな生産と汚染防止。クリーンな生産には、発生源で汚染を減す製造システムや製品の変更がある(製造工程や製品開発段階で)。持続可能な製品デザインや生物に基づいた技術*・製品生産で消費される材料やエネルギーへ配慮しながら、また製品に対する基本的な需要を問いながら、クリーン生産活動は製品自体の危険に向けられる。
* bio-based technology
 
かわりのものの評価。かわりのものの評価は、予防の根底にある要素と同様、受け入れられている方法論である。例えば、米環境政策法は、連邦政府に、なにもしないという方法を含む、かわりの方法を、潜在的に環境に影響するとはっきりしている活動(あるいは資金提供する活動)すべてについて、調査することを求めている(環境影響声明中で)。 市民は、あらゆる選択肢が考慮されない場合、裁判に訴える権利を持つ。ヨーロッパの数か国は、全潜在的産業汚染者に対するこのような計画を始めた。マサチューセッツ工科大学のニコラス=アッシュホードは、技術選択肢評価**という化学事故防止のための仕組みを開発した。この仕組みのでは、会社はかわりの主な防止技術の包括的アセスメントをすることを求められ、もし安全なかわりの方法が選べない場合、会社の決定が正当化される。
* U.S. National Environmental Policy Act 
** Technology Options Assessment
 
健康に基づいた職業被ばく限度。数年間に渡って、米国の産業衛生専門家は、健康への影響が認められる最低の被ばくレベルに基づいて、職業被ばく限度リストを作っている。これらのレベルは、新しい職業被ばく限度として提案されている。
 
逆転した化学物質記載責任。デンマークと米国での提案は、化学物質とその影響に関する情報の開発を進めるために提案されている。デンマークでは、ある化学物質で十分な毒性情報が利用できない場合、その化学物質群の中で最も有毒であると考えることを求る提案が出されている。米国の提案では、大量に生産される全科学物質は、それに関する基本的毒性情報がない場合、放出と廃棄の報告に関して、毒物放出インベントリーに付け加えられる。
 
有機農業。米農務省は、新しい技術や物質が有機農業で認められるかどうかを決定する規則として、予防原則を使うことを考えている。これらの決定は現在、「重大な劣化*」の証拠に基づくリスクアセスメントによっているが、有機農業はそれ自体予防的アプローチに適している。有機農業は、害の証拠を待つよりは害を起こす物質や活動を避けるという原理を前提として、リスクを嫌う。
* measurable degradation
 
生態系管理。生態系の複雑さと地理的範囲は科学的な不確実性を増加させ、過誤の結果は荒廃させることがあるため、生物多様性の問題は予防原則に良く合っている。リスクアセスメントやほかの方法では、海の生態系の荒廃や漁業が崩壊するので、このような大失敗を予測し防ぐことができない。疫学のように、生態系の管理は科学哲学と人的介入に対して、新しいアプローチを求めている。予防原則を採用することは、例えば、介入が可逆的で柔軟でなければならないことを示している。
 
市販前あるいは活動前の試験の要求。連邦食品医薬品法は、全新規医薬品を市販前に安全性と有効性について試験しなければならないことを、求めている。このモデルは、工業化学物質やそのほかの活動に応用できるだろう。
 
 
V. 予防行動の例
 
国際合同委員会
 
恐らく最も注目に値する米国での予防原則適用は、五大湖地域で起こっている。五大湖は、水域への残留性有機化合物の放出によって長年脅かされてきた。1970年代後期、米国とカナダは、五大湖から残留性化合物の放出を実質的になくす目標を設定した、五大湖水質合意に署名した。この合意のもとで、国境沿いの水域を守るために設立された、100年間に渡る2年ごとの集まりが、湖の質と質に対する脅威に関して研究を行い声明を出すために、国際合同委員会が設立された。
 
第6回五大湖水質に関する隔年報告(1992)で、合同委員会は五大湖で残留性生物濃縮物質により生じた損害と、そのことを処理する重大な必要性に注目している。また、委員会は環境中の同化能力の概念に基づいて残留性生物濃縮物質を管理しようとした試みが、みじめに失敗したことを認めている。委員会は、五大湖生態系ですべての残留性毒物の段階的禁止を要望し、次のような声明を出した。
 
このような戦略は、急性あるいは慢性的損害が普遍的に受け入れられても受け入れられなくとも、あらゆる残留性毒物は環境に危険であり、人間の健康に有害であり、そしてもはや生態系は耐えることができないことを、認識すべきである。
 
委員会の米代表にブッシュ大統領から任命されたゴードン=ダンヒルは、1998年1月のウイングスプレッド会議で、委員会がどのようにして次の結論に達したかを思い出している。「我々委員会が、科学者に、人々や野生生物に関する汚染の影響について何を知っていたかをたずねた時、科学者は確実なことは知らないというだろう。最後に、我々は、膨大な経験と観察に基づいて、科学者が信じていたことが起こったかをたずねた。次に、様々な経歴の科学者が話したことは、排出をなくすことを試みるために、それらの影響を私たちは十分知っていると確信した」。
 
マサチュウセッツ州での毒物使用削減
 
マサチュウセッツ州毒物利用削減法は、予防原則の突出した例である。1989年に通過し、この法律は、特定な量の、約900種の産業化学物質を使用する製造業は、これらの化学物質の使用を削減する方法をはっきりさせるため、2年ごとに計画を作ることを求めている。予防行動の良い例となる、毒物利用削減のいくつかの側面がある。
 
目標設定.マサチューセッツ州は50%の有毒副産物(廃棄物)削減目標を設定した。
 
かわりのもの。産業施設に「安全」使用レベルをはっきりさせることを指示するのではなく、法はどんな使用量でも多すぎると考える。会社は、かわりのものが実際により良いことを確保するために、自分たちが特定の化学物質を使う理由と方法を理解し、包括的に財政・技術・環境・職業衛生安全に関して、実行できるかわりのものの分析を行うことを求めている。
 
モニタリングと報告。会社は、有毒化学物質利用削減で、毎年の進歩を評価することが求められている。
 
責任。かわりのものを突き止め、この化学物質の影響を分析する責任は企業にあるが、マサチューセッツ州は、有毒化学物質利用削減を確実に前進させるために、支援と支援金を提供する。
 
企業は何らかの特定の選択肢を選ぶことを命令されないが、多くの例で経済的利益と、環境・健康・安全の利益は、活動を十分に正当化する。化学物質購入や運搬・廃棄物処理に関連する経費は非常に高い。1990年〜1995年までに、マサチューセッツ州内の会社は有毒化学物質放出を3分の2より多く、全化学廃棄物を30%まで、全使用量を20%まで減した。この法はマサチューセッツ州の産業に、この計画によって得られた一般人の健康や環境の利益を別として、約1500万ドルを節約させた。
 
 
Y.予防の発動:過程の流れ
 
この章は、予防原則を特定の問題に応用する過程を述べる。ここには2つのタイプのケーススタディを含める。一つは新規のあるいは提案された活動に、もう一つはすでに存在する問題に向けたものである。アプローチはほとんど同じであるが、微妙な差がある。新規活動に関しては、潜在的に有害な活動の提唱者に立証責任を移すことを強調する。その活動が有害でないということだけでなく、疑問な行動をせずに済ませることを含む、広汎なかわりのことを考えたことも、提唱者は証明すべきである。もちろん、このような分析もまた、独立に立証すべきである。既存の活動に関して、最も有効な手段は予防原則の心である。害の証拠以前の行動と、ここでも提唱者に立証責任を伴って。
 
この決定の枝分かれは、健康と環境への脅威に対するかわりのものを定義し、吟味し、突き止めるために、首尾一貫した主張の基礎を提供する。これらの常識に従って、意志決定過程の合理的な段階は、一部は実務書に書いてあるが、活動者が感情主義の非難を受けるのを少なくするだろう。単純な反対の立場をとるかわりに、主張するものは地域共同体を合理的で賢い解決に導くことができる。
 
これらの段階は単純である。最初に問題あるいは潜在的な脅威の特徴を述べ、理解する。分かることと、分からないことを理解する。活動あるいは製品のかわりをはっきりさせる。活動の進路を決定する。モニターする。(もし特定の活動の影響を知ることができたなら、とられた行動はもはや予防ではなく、防止策あるいは抑制行動である)。
 
 ケーススタディA。新製品あるいは活動:自分たちの共同体で新しい殺虫剤を空中散布するという提案
 
 ケーススタディB。既存の問題:漏れだしている埋め立て地
 
第1段階:起こりうる脅威を突き止め、問題の特徴をはっきりさせる
 
この段階の目的は、その活動が続けば起こるかもしれないことを良く理解することと、この活動に対する正しい質問をできるようにするためである。うまく解決できないのは、問題の定義が悪かった結果であることが多い。直接の問題と、この脅威に伴うかもしれないほかの全世界的なことを考えよ。たずねるべき疑問がある。
 
なぜこれが問題か?恐らく、それは一般人の健康あるいは環境に脅威を与える可能性を持っている。
 
その脅威の潜在的な空間規模はどうか、地域・州規模・地方・国・世界?
 
潜在的な影響の全範囲は?人間の健康、生態系、両方?特定の種あるいは生物多様性への影響が起こるだろうか?水路や空気・土壌への影響があるか?間接的な影響を考える必要があるか(製品のライフサイクル−生産と処分のような)?
 
一部の集団(人間あるいは生態系)が不釣り合いに強い影響を受けるか?
 
起こりうる影響(強度)の規模はどうか?害の程度は無視できるか、最小限、中程度、かなり・破滅的?
 
一時的な脅威の規模は?ここには2つの考慮することがある。1) 脅威と起こりうる害との間の時間経過(直ちに、近い将来、将来、将来の世代)。害が生じるかも知らない将来が遠ければ遠いほど、影響を予測しにくくなり、問題を突き止めて停止させることが難しくなり、将来の世代が影響を受けるとさらに思われる。2) 永久の持続性(直ちに、短期、中期、長期、世代間)。
 
脅威はどのようにして元に戻せるか?もし脅威が生じた場合、容易に修復できるか、あるいは何世代にも渡って続くか?(容易に・急速に回復できる、回復は困難・高額、元に戻らない、不明)。
 
既存の問題に関する注意:目前にある問題をはっきりさせることは、将来の計画から起こる問題より困難でない。しかし、最初の疑問は同じである。問題は、特定の施設による局地的な汚染、あるいは汚染防止に対する幅広い注意の欠如、又はその両方か?それは政府の失敗によって起こったのか、又は会社の過失によって起こったのか?それは深刻な脅威か、あるいは目障りなのか?
 
A. 空中散布の場合、脅威は、人間と生態系の飛散農薬被ばく及び非標的生物への影響として、特徴を述べることができる。空間的規模は局地的であろうが、もし農薬が残留性であったり、強風であった場合、影響は地方的あるいは世界規模でさえあり得る。回復するというような、重大さと時間的規模は、農薬の毒性に依存するだろう。
 
B. 埋め立て地の場合では、問題は欠陥のあるライナーと町職員の不十分な検査によって生じる。問題は局地的と思われるが、もし浸みだしたものが表流水に入ると、長距離を運ばれるだろう。埋め立て地から漏れだしたものに応じて、問題は短期間あるいは長期間となるであろう。漏れは、埋め立て地周囲に住む集団に、不釣り合いに大きな影響を与えるだろう。
 
第2段階:脅威について、分かっていることと、分からないことをはっきりさせる。
 
この段階の目標は、この脅威を理解することの中にある不確実性の実態を、よりよく知ることである。科学者は、私たちが知っていることに焦点をあてることが多いが、同様に、私たちが分からないことを明らかにすることは恐らくそれ以上に重要である。後の考察で説明するように、不確実性には程度とタイプがある。適切な疑問は次のものである。
 
不確実性は、さらなる研究やデータによって減らせるか?もしそうなら、そして脅威が大きくなければ、実質的な利益を持つプロジェクトは続けられるだろう。
 
知ることができないことを扱っているのだろうか?又はそれについて全く無知なのだろうか?起こりうる害に関する高度の不確実性は、プロジェクトを前進させないための良い理由である。
 
多くのストレッサーに被ばくすることによる相加的及び相乗的影響について、及び、種々のストレスに被ばくが組合わさることによる集積した影響について、何が分からないか?
 
ある活動が安全であると政府や産業が主張していることは、まだ危険だと証明されていないという意味でしかないのか?
 
理解していることで、よりよい相対的な実態を知り、理解のギャップを知るために、脅威について分かっていることと、分からないことを、一覧表にしても良い。
 
A. 農薬の場合、恐らくあなたは不活性成分を知らないだろう。不活性成分は農薬の大部分を占める。恐らくあなたは、神経毒性と発癌(がん)性以外の、人間に対する健康への影響をほとんど知らないだろう。あなたは飛散と蒸発について知らない。あなたは生態系や健康に対する相加的あるいは累積的影響を知らない。あなたは全被ばく経路(飲料水・シャワー・その他)や被ばくの程度を知らない。あなたは、益虫や花粉を運ぶ生き物に対する影響を知らない。ラベルに書いてある情報を手に入れなければならないし、同様に散布が提案されている日の風向と風速を知らなければならない。恐らく、飛散に関する幾らかのモニタリングデータがある。
 
B. 埋め立て地の場合、多くの発生源から運び込まれるので、どのようなものが埋め立て地にあるかを、あなたは分からない。あなたは、埋め立て地で物質間に生じると思われる反応についても、分からない。あなたはその地域の水門学に関して幾らかの情報を持っているが、飲料水に影響を及ぼすかどうか、あるいは時が過ぎるとどうなるかを知らない。
 
 
第3段階:行う必要があることを記述するために、問題の再構成
 
この段階の目標は、提案された活動の目的は何かを良く理解することである。例えば、開発は家屋を供給し、溶剤はグリスを取り去り、農薬は害虫駆除をし、工場は仕事と特定のサービス製品を供給する。次に、かわりの方法を容易に突き止めるために、達成するのに必要なことに関して、問題を再構成できる。
 
 農薬の場合、問題の再構成は、農薬を散布するよりは、害虫を管理するさらに重要なことに導く。
 
B. 既存の問題は、再構成を要する場合と要しない場合がある。埋め立て地の場合、共同体にとって、廃棄物をどのように処理するかを再考する時期である。
 
第4段階:かわりの方法の評価
 
この段階では、提案された活動と既存の活動に、やや違ったやり方で注意を向ける。
 
提案された活動:予防原則に統合することは、脅威を与える活動に対するかわりの方法の包括的、体系的分析である。このことは、どのくらい多くのリスクが受け入れられるかということから、この活動をするために安全でよりクリーンな方法があるかどうかへ、規制当局や会社が考えるべき疑問に、再び焦点をあてる。評価中のかわりの方法は、巧妙で革新的である。問題が示されただけでなくかわりの方法が明らかになった提案を撤回させることや、あるいは考慮すべきであると要求することは、さらに困難である。「活動をしない」という、かわりの方法を考慮しなければならない:恐らく、余りにも多くの脅威を与え、不必要なために、ある活動は進めてはならない。
 
既存の活動:この時点で、あなたは、この問題を取り扱うために一連のかわりの方針を見つけ、評価するだろう。その活動を完全に中止・予防・抑制・緩和・改善するために、選択肢をさらに研究できる。
 
どちらのケースでも、かわりの方法の評価は多段階の過程である。
 
最初に、広い範囲のかわりの方法を徹底して議論しなければならない。次に不可能と思える選択肢をふるい落とす必要がある。
 
次の段階は、政治的に、技術的に、そして経済的に実行可能であるかどうか決めるために、かわりの方法を評価することである。型にはまった知恵でこの評価を限定させるな。現在経済的・技術的に可能でないことが、近い将来可能であるかもしれないということを、忘れないでおきなさい。そして、政府当局と企業は、数値化できないことが多い、健康への害や種の減少、その他の脅威を与える活動の「外部」費用を、まれにしか考慮しない。これらの懸念を評価に取り入れなければならない。
 
かわりの方法を評価する最終段階は、提案した、かわりの方法の意図しない潜在的な結果を考慮することである。予防原則に対する一般的な批判は、予防原則の実行がさらに危険な活動を導くかもしれないことである。このことは真実ではない。脅威を与えている活動のかわりの方法も同様に良く調べなければならない。
 
A. 農薬の場合、かわりの方法は、総合防除技術や毒性の低い農薬、飛散を避けるために地上散布を用いながら、全く散布(空中?)を取り入れないだろう。
 
B. 埋め立て地の場合、どのように地域の地下水に影響を及ぼしているかを良く理解するために、さらに研究を行うことができる。別な活動は、埋め立て地を閉鎖するが、次に地域共同体は別な処分方法を見つける必要があるだろう。その方法には、相当の問題を与える焼却などがある。ほかの選択肢は、漏れだしている埋め立て地の部分にふたをすることであろう。
 
第5段階:行動の方針を決定
 
これまで集まった全情報を理解し、どのくらいの予防をとるべきかを決定しなさい − 潜在的影響を減すために、活動停止、かわりの方法を要求、変更の要求。これを実行するために役立つ方法は、人々を集め、影響の範囲と大きさや不確実性・様々な情報源から得たかわりの方法を考慮しながら、証拠の重みを調べることである。証拠の重みは、正しい行動方針の決定を導く。
 
A: 農薬散布の例では、害虫がまん延しているかどうか、そして作物に害を与える程度が不明であるから、散布は不必要であると決定されるであろう。行動方針は害虫被害のモニターと、必要ならば局地的な介入を行うことである。
 
B. 埋め立て地の場合、行動の方針は、独立したレビューとともに、影響範囲をはっきりさせるためにさらに調査することである。この後に、埋め立て地の閉鎖や漏出の制御といった、地域的な選択肢がある。
 
第6段階: モニターと追跡
たとえ活動が行われても、時間が過ぎるにつれその活動が予期した結果と予期しない結果をはっきりさせるために、モニタリングは重要である。これらの実施されている活動は、このようなモニタリングのために財政的責任を担うべきであるが、可能な場合は、モニタリングは独立して実施されるべきである。集まった情報は、追加的行動方針や別な方針を保証するだろう。
 
農薬の例では、もし散布に取りかかったなら、健康調査を要求し、医師に健康への重要性を警告するだろう。
 
B: もし埋め立て地の一部が覆われたなら、規則的なモニタリングは漏れが起こらないことを確実にするだろう。又は漏れが起こったなら迅速な行動をとるであろう。
 
 
 
Z.ダイオキシン:予防に対する根拠
 
ダイオキシンはこれまで最も集中的に研究された物質であるが、影響の全範囲はまだ分からない。増え続けている証拠は、ダイオキシンが人間やほかの生物に有害であることを示しているが、害の絶対的な証拠は確立していない。米環境保護庁が1990年代初期に開始したダイオキシンの評価と再評価過程は、ダイオキシンの影響に関する不確実性を減そうという、終わりのない試みに見える。しかし、これはダイオキシン被ばくを中断させないであろう。そのかわり、ダイオキシン発生源の抑制に関して、どのくらいの量のダイオキシンに人間と生態系が耐えることができるかに関する、多くの議論を招くと思われる。
 
これは、予防原則を適用する理由と方法の典型的な例である。まず、予防に関する議論。
 
害の証拠。ダイオキシンは、研究室での実験で、非常にわずかな量で急性及び慢性的に極度に有毒である。実験的証拠及びメカニズムの証拠の結果、最も有毒なダイオキシンであるTCDDは、人間に対して発癌性があると、国際癌研究機構によって確認されている。ダイオキシンは、クロルアクネのような、ほかの様々な影響に関連があり、そして子宮内膜症やほかの病気と関連しているであろう。悪影響が、非常に低いレベル、現在の「バックグランド」レベル近くで生じるという、証拠がある。
 
残留性と不可逆的な害。ダイオキシン汚染の時間と空間スケールは莫大(ばくだい)である。ダイオキシンは世界中で測定されており、人間と環境中の残留性は、次の世代が現在作り出したダイオキシンに被ばくするだろうということを、意味している。人間や生態系に対するダイオキシンによって引き起こされる害は、回復しないあるいは回復に数十年かかると思われている。
 
抑制と浄化の困難性。少量で有害なため、特に燃焼のような開放発生源からのダイオキシンを、一般人の健康を守る程度にまで、放出を抑制することは、実際には実質的に不可能であり、極度に費用がかかる。完全な浄化も実際には不可能である。
 
科学的不確実性。ダイオキシン被ばく結果の一つである癌は、明らかになるのに長年を要するので、被ばくと病気を結びつけるのは不可能なことが多い。ダイオキシン混合物とほかの残留性有機化学やそのほかのストレッサーとの、影響の結びつきは余り分かっていない。例えば、免疫系に対する影響に、仕事に関連するストレスが、ダイオキシン被ばくとどのように組み合わさるのか?相互作用に関する一部の実験証拠があるが、相互作用を証明するのは極度に困難である。
 
予防は可能である。ダイオキシンは主に人間活動によって作られたという、一般的合意がある。ダイオキシンの多くの発生源は、予防行動により短期間に減らせる、あるいは除去できる。
 
現在の方策は不十分である。一部のデータは、恐らく古い焼却炉を閉鎖したり装置の改良をしたため、及び汚染抑制と技術の変化のために、ダイオキシンレベルが低下したことを示しているが、問題は解決していない。例えば、さらに多くの塩ビ製品が焼却されたり、火災事故で燃えたりすれば、将来ダイオキシンレベルは上昇するだろう。
 
ダイオキシンに対する予防的アプローチは、疑いもなく被ばくゼロの目標を設定することであり、それは恐らく放出ゼロを意味するだろう。しかし、何段階化の予防がある。
 
穏健な予防アプローチは、最大のダイオキシン発生源を減したり、除去することに、まず見られるだろう。最大の発生源は、一般廃棄物と医療廃棄物焼却・パルプと紙の生産・鉄や鋼鉄の生産・有害廃棄物焼却・野焼きであることを知っている。しかし、ダイオキシンを作り出すものはどこかに、恐らく、火がつき制御なしで燃える埋め立て地や、第三世界に運ばれることを、このアプローチは意味している。
 
予防の強いバージョンである、物的アプローチは、ダイオキシンの究極の発生源である主な塩素源に向けて試みられるであろう。焦点は、塩素系殺虫剤と溶剤・パルプと紙の生産・塩化ビニルプラスチックに、焦点があてられるであろう。これまで最大の塩素を使用している塩ビの段階的廃止は、疑いもなくダイオキシン放出を大きく減すだろう。しかし、次に、塩ビのかわりは何か、それは安全か、それは塩素を含むかを、私たちは問わなければならない。また、現在塩ビのために生産されている塩素が、ほかの製品に向かうかどうか、問わなければならない。
 
塩素の段階的廃止は、特に産業工程と製品で、ダイオキシンを実質的に排除する唯一の方法である。さもなければ、どのくらいの量のダイオキシンは安全かを議論しながら、そして各発生源からの放出を評価しようと試みながら、私たちは発生源をいつまでも追いかけるであろう。予防行動と、発生源と被ばくのモニターと測定のため、及び新たな被ばく源の可能性を発見するため、塩素のかわりのものを研究するため、かわりのものが深刻な問題を起こさないことを確実にするために、ますます多くの科学が重要である。予防は同時にする必要がある。
 
 
[.不確実性の理解
 
人間が住み生産をしている、開かれた動的環境中では、知識が限られることが多く、科学的確実性に到達することは困難である。不確実性それ自体様々であり、非科学的であると同様科学的である。一部の不確実性は、突き止めることができ、減すことができる。残りはできない。環境と一般人の健康に影響する判断をする場合、私たちは何を知らないか、そしてなぜかを理解することは、事実を明確にすると同じく重要である。
 
不確実性は次のカテゴリーにわけることができる。
パラメーターの不確実性は、分析するために特定な情報要素がない、あるいは曖昧(あいまい)であることをいう。パラメーターの不確実性は、さらに多くの情報を集めたり、データを集めたり分析するために、さらに良い技術を用いて、減すことができることが多い。しかし、それが多様性によるものであれば、このような場合に当たらない。環境放出で、個々人は様々な被ばくを受けるだけでない。人々の害に対する感受性も変化する。危険に対する被ばくを測定し、抑制しようという試みは、集団中の多くの人を適切に守れないだろう。
 
モデルの不確実性は、科学的理論中のギャップ、あるいは、例えば量・応答関係のような、情報ギャップを埋めるために使うモデル中の不正確さをいう。モデルは現在と過去の出来事を説明するために、あるいは未来を予知するために作られる。モデルは、モデルを作るのに用いた情報と同じだけ良いものである。モデルが開かれ、相互依存している環境系に関連した時、モデルは必然的に不完全である。モデルはさらに、そして一層詳細な情報を取り入れれば改善できる。
 
系統的・認識学的不確実性は、累積的で多様な相互作用する被ばくに関する未知の影響を指す。系統的不確実性は、大規模あるいは長期間の分析の重要な混乱因子である。
 
煙幕不確実性は、リスクを発生させ、特定の物質や活動の影響を隠すことに利害がある者の戦略をいう。彼らは、危険を研究することを怠り、影響に関する知識を隠し、あるいは不確実性を作るために研究を計画する。規制を批判する者は規制を避けるために不確実性を良く使う。
 
政治的に誘導された不確実性は、健康と環境を守る責任をもつ機関の一部が、故意に無知であることを指す。当局は危険を調べる決定をせず、あるいはその分析の範囲や問題を解決するためのかわりの方法を制限し、その決定で不確実性を重要視せず、定量モデルの中に不確実性を隠すだろう。
 
不定とは、関連する不確実性が大規模で非常に多様なため、不確実性が大きく減ることは決してないことを意味する。
 
無知には2つの面がある。肯定的には、どのくらい多くのことを私たちが知らないかを、謙虚に認めることである。否定的には、不確実性を考慮しないで決定をする活動である。
 
例:産業化学物質の毒性検査
 
毒物統制法の下で、化学産業と輸入業者は、化学物質製造以前に、化学物質の潜在的な健康影響に関連するデータを提出することが、求められている。環境保護局は、化学物質が市販される前に追加の検査を要求できる。また、会社は、その物質が一度市場で手に入るようになると、実質的なリスクの証拠を提出しなければならない。
* Toxic Substances Control Act
 
1984年のはじめに、米科学アカデミーは、工業化学物質の健康影響に関するデータが圧倒的に欠けていることを、注意した。アカデミーは、最も大量に一般使用されている化学物質の78%が、「最低限」の毒性検査すらされていないことを、発見した。
 
環境防衛基金[1977]や環境保護局[1998]が指摘しているように、この状況は約14年後も改善されていない。100万ポンド以上取引されている、3000の生産量の多い化学物質につけいて、研究は次のように述べている。93%は基本的な化学物質のスクリーニングデータがない。43%は基本的毒性データがない。毒物放出目録に関する51%の化学物質は、基本的毒性データがない。手に入る情報の大部分は急性毒性だけに基づいている。
* Environmental Defense Fund
 
アル=ゴア副大統領は、これらの3000種の化学物質について基本的なスクリーニングを行うことを、産業に命令したが、ここには人間の被ばくや健康影響・リスクに関するデータは入っていない。環境保護庁は受け取った情報に基づいて行動する義務はないだろう。
 
不確実性と無知の、様々な形と発生源が、産業化学物質の検査と認可過程に存在する。
 
完全な範囲の健康影響を知ることなく、環境中で使用・放出される化学物質を環境保護庁が認可する活動の中に、無知がはびこっている。
 
特定の化学物質が発達中の胎児や新生児にどのように影響を及ぼすかなどの、人間の被ばくと、様々な毒性の結果に関するデータの欠損中に、パラメーターの不確実性は存在する。
 
データの欠損はモデルの不確実性を誘導する。
 
科学が環境中の有毒化学物質の相互作用と、化学物質の集積的影響を研究しはじめたばかりなので、系統的不確実性が存在する。
 
試験の実施あるいは報告することに関する産業の怠慢と、ほかの要因(病気の作用メカニズム・食事と遺伝・「天然の」発癌物質)に関する議論に焦点をあわせようとすることとは、煙幕不確実性の一つの形である。例えば、重大なリスクの通知を提出するために、EPAが産業に暫定的に寛容にしたとき、環境保護局は短期間に11,000の届出書を受け取った。
 
政治的に誘導された不確実性は、政府当局が化学物質の試験を実施させない、あるいは命じない場合や、ある物質よりは別な化学物質を調べようと決めた場合に発生する。
 
伝統的な研究科学は、因果関係を主張する前に、ほぼ完成した、完全に支持する情報を集めようとする。統計的に、科学者は、観察した結果が偶然だけによるものではないことが、95%確実であることを望んでいる。この科学の規範は、残念ながら、人間の健康と環境への害を見る時にも持ち込まれる。意志決定者が95%の確実性を追究することは、現実には危険が存在しないのに措置(そち)や規制をするという、明らかに、第一種の過誤と呼ばれるものを避けようとしている。この過誤を避けることに焦点をあわせることにより、意志決定者は、実際に害がある時に何もしない、すなわち、第二種の過誤と呼ばれるものを犯す可能性を増加させる。
 
不確実性は政府当局や産業の力の源となることがある。不確実性は、私たちがまだ十分分からないとか、行っている活動は不合理であるとか、「がらくた科学」に基づいているだろうというために、使われることがある。しかし、これらのスポークパーソンは、自分たちがどのくらい知っているか、あるいは知らないかを、めったにいうことはない。産業の代表は、ある製品を実際には検査していない時、あるいは不確実な時、「安全」や「許可された」というような用語を使うだろう。
 
また、不確実性は、害の絶対的な証拠がない場合に行動すべき理由として、産業に対する正当化に直面した場合、政府の弱点でもある。政府当局にとって、産業の逆鱗に触れるよりも、表面的には客観的で科学的に見える定量的分析により、不確実性を覆い隠す方が、ずっと容易である。この覆い隠すことは、一般人の激怒をそらす方法でもある。知識は科学技術知識と同じである。伝統や生活体験を通じて得た知識は、定量化できる知識のために、価値が減らされる。
 
現在、不確実性は、人間の健康や環境のために予防行動をしない理由として使われている。しかし、ある特定の害がどのようにして人間や環境に影響を及ぼすかを決して分からないことに気づきながら、行動する理由として不確実性を使うことができる。私たちは、自分たちが知っていることや、それを知る方法、知ることの限界を考える必要がある。環境や一般人の健康の擁護(ようご)者は、私たちの無知の深さを暴くために、産業や規制当局に難しい疑問をしなければならない。一度知識の欠如が暴露されると、害の影響に関する情報なしに、人間と環境を害に不必要に曝(さら)すという概念は、不合理であり、予防が論理的であると分かるであろう。
 
 
\.リスクアセスメントか、予防原則か?
 
1970年代の間に、リスクアセスメントと費用便益分析という意志決定手段が、不確実な科学と害を制限するために意志決定する政治的必要性との間にある、ギャップを埋めるために開発された。しかし、その開発の中で、極度に複雑な生態系と人間のシステムの中で、モデルを作り害を予知するために、科学の能力に大きな信頼をよせた。技術的なプロセスとパラメーターが良く定義されて分析できる橋の建設のような機械的問題のために、本来、開発されたリスクアセスメントは、極度に不確実で非常に多様なことを予知する役割を担った。
 
リスクアセスメントを、意志決定の「合理的な科学」として、政府当局や産業界がみなしている。この中では、決定は、何が分からないか、あるいはできないかを考慮することなく、定量できるものに基づいて行われる。先に述べたように、これらのことは不確実性の部類にひとまとめにほうり込まれる。ほとんどの科学者は認めないだろうが、意志決定のためのリスクアセスメントやそのほかの「合理的な科学」的方法は、非科学的あるいは主観的であることが多く、政治と科学仮定に大きく依存している。
 
二次的なものであったにしても、環境中の害の複雑さを良く理解することの中に、リスクアセスメントの適切な役割がある。しかし、伝統的に行われてきたように、リスクアセスメントは、人間の健康や環境を守ることを妨害することが多かった。その場合には、大きな仮定と通常のリスクアセスメントの欠点があった。
 
リスクアセスメントは「同化能力」を想定している。すなわち、人間と環境はある量の汚染を無害にできるということである。リスクを取り除くことは、全体として、リスクアセスメントのもっともらしい結果ではない。リスクアセスメントは、リスクを防ぐのではなく、管理し減すために使われる。このことは、クリーンな生産を始めるためのさらに基本的な努力を妨げる。
* assimilative capacity
 
リスクアセスメントは問題を解決するよりは、むしろ問題を定量化し分析することに焦点をあわせる。それは次のようにたずねる。リスクアセスメントは、どのくらい多くの汚染が安全か、あるいは受け入れることができるか?その問題を喜んで我慢(がまん)できるか?限られた財源をどのくらい向けるべきか?これらの問いは妥当な疑問であるが、彼らはより積極的なアプローチを締め出す。積極的なアプローチは、どうしたら、有害な被ばくを防ぐことができるか、より安全でクリーンなかわりの方法に向かえるか、解決を突き止めて、順位をつけて、実施できるかといいう、アプローチである。
 
リスクアセスメントはモデルの不確実性に影響を受けやすい。現在のリスクアセスメントは、被ばくや量応答関係・動物から人間への推定に関して、少なくとも50の異なる仮定に基づいている。これらのすべては主観的で恣意(しい)的な要素である。結果として、リスクアセスメントの定量的な結果は非常に変わりうる。
 
欧州連合EUは、危険の分析中、ヨーロッパベンチマーク試験で、リスクアセスメントの仮定に対して限界を認識している。試験の中で、16のヨーロッパ政府は、アンモニア放出事故に関する問題について作業するため、科学技術者のチームを作った。試験の試験の結果は、400分の1から1000万分の1に渡る、11の異なる結果が出た。主催者は、「リスク分析のあらゆる段階で、分析者によって多くの仮定が導入され、推定結果はこれらの仮定に強く依存していることを、認識しなければならない」と、結論を下した。
* [Contini, et al. 1991. Benchmark Exercise on Major Hazard Analysis. EUR 13386 EN Commission of the European Communities, Luxembourg]
 
同時に、現在のリスクアセスメントは多くの変数を、特に多重被ばくや過敏な人間・癌以外の結果を省略している。リスクアセスメントは、単一化学物質の基準を設定することに適しており、多くの共同体で見られる化学物質の混合物を解析することはできない。リスクアセスメントが癌以外の影響を考えることはまれであるが、多くの環境による健康問題には、呼吸器疾患や先天異常・神経系の疾患が含まれている。リスクアセスメントは直線的応答を分析するために設計されており(被ばくが強ければ強いほど害が多い)、そうでなければ窮地に追い込まれる。例えば、一部の化学物質が人間のホルモンシステムをかく乱する能力は、これらの影響を多量よりもむしろ少量で誘導することを、示している。
 
リスクアセスメントは、「許容できるリスク」の装いのもとで危険な活動を続けることを許す。リスクアセスメントは、定量的で、不正確に対して技術的に洗練した、仮定のある、政治的に操られる科学という雰囲気を持っている。リスクアセスメントは、安全であるか、あるいは被ばく者が許容するという前提のもとで、より大きな汚染と健康の悪化を招く活動の継続を許す。リスクアセスメントは、不確実性と不十分な証拠に直面して、規制と対策をくい止める。
 
リスクアセスメントは費用と時間がかかる。単一のリスクアセスメントは、終えるまで5人で1年を要する。リスクアセスメントは、被ばくの影響がすでに明らかな場合(上記のダイオキシンの分析を見よ)、リスクを定量化し、ランクをつけようとして、限られた財源を縛り付ける。リスクアセスメントは、予防に焦点をあてた解決から手段を取り去る。
 
リスクアセスメントは基本的に非民主的である。害に曝(さら)されている人が、被ばくを受け入れることができるかとたずねられることは稀(まれ)であり、生物学者サンドラ=シュタイングレーバーは、そのことを基本的人権侵害あるいは有毒な侵害と名づけた。リスクアセスメントは、伝統的に、一般人の認知や優先順位・必要を含めない。リスクアセスメントの過程に一般人を含めようとして一部努力がなされているが、科学的分析や意志決定に広範な一般人の関与は、向こう数年では可能性がないと思われる。このための機構は存在しない。リスクアセスメントの過程は、当局や産業界の科学者や顧問・場合によってはハイテク環境グループに限定されることが極めて多い。リスクアセスメントで一般人の関与は、一般に、非常に有害な過程にのみ認められている。
 
リスクアセスメントは責任を悪いところに置く。全体としての社会は環境中の害を扱わなければならないと仮定されており、この仕事に対する財源が乏しいと仮定されている。「社会」に全環境保護活動のためには十分な財源がないという主張は、害に対する責任がある者やそれを作り出した人・それから被害を被る人から、注意をそらしてしまう。もし、手段の不足が要因であるなら、政府の財源を、無限に問題を調べることから、危険な可能性のある活動に対する安全なかわりの手段を突き止めることへ移すのが賢明であろう。
 
リスクアセスメントは、経済の発達と環境保護との間に、誤った二律背反を持ち出す。規制当局は、環境問題の意志決定の中に科学と経済政策を関連させながら、リスクアセスメントの「科学的」過程を費用便益分析に結びつけようとすることが多い。しかし、当局は、だれが費用を負担し、だれが利益を収穫するかという疑問を考えない。後に続く浄化と健康のための費用を考慮した場合、規制を弱くした場合の費用は、一般に、過剰規制の場合の費用より大きい。
 
これらの批判を別にして、リスクアセスメントは予防原則の実施に一役を果たすことがある。基本的には知ることができない被ばくの「安全」レベルを設定するためにリスクアセスメントを使うかわりに、活動の危険を良く理解し、予防のために選択肢を比較するために使うことができる。また、民主的意思形成法と組み合わせて、有害廃棄物のある場所の浄化と回復のような活動の、優先順位をつけるために使うことができる。しかし、政策と意思決定の底にある基本は、リスクではなく、予防と防止でなければならない。
 
].批判に対する回答
 
予防原則は、環境や健康問題と長期の持続可能性に関する新しい思考方法である。予防原則は、害を許したり制限したりする方法の基本的変化を、私たちに喚起している。これらの一部は、政府当局と汚染を引き起こしたものに大きな脅威を与え、強力な抵抗を引き起こすと思われる。予防に対する批判に先手を打つことや、彼らの批判にどのように答えるかを知ることは重要である。
 
予防原則は健全な科学に基づいていない。
 
健全な科学は定義の問題である。「健全な科学」の通常の理解では、リスクアセスメントと費用便益を強調する。これらは、どうして危険が起こるのかとか、どうしてそれに人々が被ばくするのか、社会は喜んで危険に耐えるというような多くの仮定を必要としながら、価値に重きを置いた方法である。実際に、原因と影響は非常に不確実なため、人間の健康と環境に関するあらゆる決定は、価値に重きを置き、政治的である。
 
予防原則はこのことを認識し、決定をするための基本を変えることを提唱する。予防は、そうすることが不必要であるなら、人間や環境を害に曝すべきではないという原則に基づいている。
 
予防は、科学の不確実さを暴露し、科学の限界を認めるので、リスクアセスメントより完全である。これは「より健全な」種類の科学である。予防は非科学を求めないが、どのように人的活動が人間の健康や環境に影響するかをよりよく理解するために、一層科学的である。しかし、よりよく理解する必要は、自分たちや将来の世代を守るために、今行動するのを妨げない。
 
これは感情的であり、非合理だ。
 
私たちは人間であるから、体内に有毒物質を持って生まれた赤ん坊に関して考えることは、私たちの感情をゆさぶる。将来の世代を世話することは感情的な衝撃である。これらの感情は不合理ではないが、私たちが生き延びる基本である。予防は正義の基本であり、だれも自分の健康や環境に害を与える恐れとともに生活すべきではない。健康に関する意志決定は中立的価値ではない。それは政治的であり、感情的、合理的である。予防をとらないことは、不合理に思える。
 
私たちは破産するだろう。これは余りにも金がかかる。
 
予防は、健康の改善やよりクリーンな産業工程や製品を通じて、長い目で見れば繁栄を増加させるだろうと信じる、もっと多くの理由がある。環境損害や汚染による治療や汚染抑制・改善に要する費用の急騰は、予防原則を主張している場合、ほとんど見積に含められない。予防原則の要求に対してはじめは抗議したにもかかわらず、産業は危険を避けるために学習し、取り入れることができた。汚染防止の分野で、数千の会社は、害が証明される以前に、早く予防したことにより、数百万ドルを節約している。同じように行ったこれらの会社と政府は、確実な害の証明が現れた時に、自分たちの分野でリーダーになった。
 
しかし、予防をすることの中で、経済への直接的悪影響を緩和するための計画も作るべきである。予防行動が悪い副作用を可能な限り起こさないことを確実にするため、社会の様々な分野を共同して働かせる。予防は、体内に毒物を持たない子供を生むといった社会的目標を設定し、次に、目標を達成する最善の方法を決める。
 
あなたがしたいのは何か、すべての化学物質の禁止か?これは発展を止め、私たちを石器時代に戻す!
 
予防は、絶対的な否定や禁止の形をとらない。予防は、経済的幸福のみでなく、病気やそのほかの危険からの解放である生態学的な健康をも含めて、発展を再定義する。
 
予防の概念は、私たちが以前にやっていた以上に、より注意深く前進することである。予防は、かわりの良くて安全で、安価な方法の探求と、よりクリーンな製品と技術の開発を、促進するだろう。一部の技術と開発は、さらにゆっくり商業界に入って行くだろう。ほかは段階的に廃止されるだろう。
 
潜在的に有害である活動を提唱する者は、安全性と必要性を正直に証明しなければならないであろう。他方、有害な物質や工程の生産や使用を不必要にする新技術を創造する多くの誘因があるだろう。正しいシグナルで、私たちの健康や環境に対する犠牲が少ない発達を創造するために、取り入れることができる。
 
天然に存在している物質や病気は、産業活動より多くの人を害している。
 
危険に対して責任があるか、危険をコントロールできるかにつけいて、私たちは論じなければならない。活動により危険と利益を作った者も、害を生じない義務がある。しかし、予防の重要な理由は、人間活動によって生じる害の全範囲を私たちはまだ知らず、そして決して知ることはないだろうということである。例えば、一部の激しい自然現象は、地球温暖化の結果であるだろう。それは次に人間活動に結びつけられる。
 
私たちは規制に従っている。私たちは既に予防を実行している。
 
一部の場合、ある程度まで、予防は既に実行されている。しかし、私たちはそれぞれ可能性のある産業の危険や化学物質に対する法律がない。また、清浄空気法や清浄水法・スーパーファンド法のような大部分の環境規制は、環境中の放出された汚染物質の量を抑制することや、一度汚染が起こったのを浄化することを、目的にしている。それらの法律は、最初に使用や生産を制限するより、むしろ放出された時、毒物を規制している。
 
大半の現行規制は、害を受けずに、ある量の汚染物質を人間や生態系が吸収できるという仮定に基づいている。「安全」あるいは「耐容」レベルについて、極端な不確実性があり、多くの場合、私たちはそれらのレベルを突き止めることができないことを、私たちは現在学んでいる。
 
あらゆるものを安全であると証明できない。
 
ある活動に対するより安全なかわりのものがあることは、証明可能である。
 
あらゆる活動は何らかの影響を持つということができるだろう。あらゆる化学物質は何らかの量で有毒である。
 
ほとんどすべての人間や産業活動は、生態系に何らかの影響を持つだろう。予防原則の長所は、安全あるいは耐容できる影響のレベルを突き止めようとすることより、むしろ影響を減すことを絶えず試みることである。
 
 
XI. 参考文献
 
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Wynne, B. 1993. Uncertainty and environmental learning. In Jackson, T., ed., Clean Production Strategies. Boca Raton: Lewis Publishers.
XII. 付録
 
予防原則に関するウイングスプレッド宣言*
 1988年1月
* Wingspread Statement on the Precautionary Principle January 1998
 
有毒物質の放出や使用、資源開発、環境の物理的変更は、人間の健康や環境に重大な意図しない結果をもたらしてきた。懸念されることの一部は、地球規模の気候変化や成層圏オゾン層の枯渇、地球規模での有害物質や核物質による汚染とともに、高い割合で起こっている学習障害や喘息(ぜんそく)・癌・先天性障害・種の絶滅である。
 
私たちは、特にリスクアセスメントに基づいた既存の環境規制やその他の決定は、十分に人間の健康と環境、及び人間がほんの一部である大きなシステムを、守ることに失敗したと信じる。
 
私たちは、人間と世界規模の環境に与えた害は非常に大規模かつ深刻なために、人間の活動を管理するために新しい原理が必要であるという、抗し難い証拠があると信じる。
私たちは人間活動に害があり、人々は最近の歴史で行ってきたよりも一層注意深く進まなければならないと自覚している。企業や政府・組織体・地域共同体・科学者・その他の人々は、すべての人間活動に予防的アプローチを採用すべきである。
 
そのため、予防原則を実行する必要がある:ある活動が環境や人間の健康に害を与える脅威を生じるならば、科学的に一部の因果関係が十分に確立しなくとも、予防的方策をとるべきである。
 
この関係で、ある活動の提唱者は、一般人よりも、立証責任を持つ。
 
予防原則を適用する過程は、公開であり、良く情報が伝えられ、民主的でなければならず、潜在的に影響を受ける当事者が入らなければならない。また、何もしないことを含めて十分にかわりの方法を検討することも含めなければならない。
 
ウイングスプレッド参加者
(加入は、はっきりさせる目的のためだけに記した)。
 
Dr. Nicholas Ashford, Massachusetts Institute of Technology
Katherine Barrett, University of British Columbia
Anita Bernstein, Chicago-Kent College of Law
Dr. Robert Costanza, University of Maryland
Pat Costner, Greenpeace
Dr. Carl Cranor, University of California, Riverside
Dr. Peter deFur, Virginia Commonwealth University
Gordon Durnil, attorney
Dr. Kenneth Geiser, Toxics Use Reduction Institute, University of Mass., Lowell
Dr. Andrew Jordan, Centre for Social and Economic Research on the Global
Environment, University Of East Anglia, United Kingdom
Andrew King, United Steelworkers of America, Canadian Office, Toronto, Canada
Dr. Frederick Kirschenmann, farmer
Stephen Lester, Center for Health, Environment and Justice
Sue Maret, Union Institute
Dr. Michael M'Gonigle, University of Victoria, British Columbia, Canada
Dr. Peter Montague, Environmental Research Foundation
Dr. John Peterson Myers, W. Alton Jones Foundation
Dr. Mary O'Brien, environmental consultant
Dr. David Ozonoff, Boston University
Carolyn Raffensperger, Science and Environmental Health Network
Hon. Pamela Resor, Massachusetts House of Representatives
Florence Robinson, Louisiana Environmental Network
Dr. Ted Schettler, Physicians for Social Responsibility
Ted Smith, Silicon Valley Toxics Coalition
Dr. Klaus-Richard Sperling, Alfred-Wegener-Institut, Hamburg, Germany
Dr. Sandra Steingraber, author
Diane Takvorian, Environmental Health Coalition
Joel Tickner, University of Mass., Lowell
Dr. Konrad von Moltke, Dartmouth College
Dr. Bo Wahlstrom, KEMI (National Chemical Inspectorate), Sweden
Jackie Warledo, Indigenous Environmental Network
 
 
マサチュウセッツ予防原則法*からの用語
 
マサチュウセッツ州...法No. 3140, 1997
 
州の作成中の環境政策と環境質基準のガイドラインとして、予防行動原則を制定する法律
 
【中略】
 
予防原則は、環境への深刻な又は不可逆的な損害の脅威を防ぐために、行政機関の全政策や規制の決定に応用される。ある方法や開発が、州の大気や土地・水の劣化を起こすかもしれないという懸念に関して、合理的な根拠がある場合、予防原則を適用すべきである。十分な科学的確実性に欠けることを、犠牲の多い環境悪化を予防するために、高い費用効果がある対策を先のばしにする理由として使ってはならない。予防原則によって、直接間接に環境中に導入される物質あるいはエネルギーが、人間の健康に害をもたらす、あるいは生物資源と生態系に害を与える、アメニティに害をあたえる、合法的な利用を妨害するといった懸念に合理的な根拠がある場合、導入と影響との間に因果関係があるという決定的証拠がない場合でさえ、予防的措置がとられる。州に存在するものと契約当事者すべては、環境保護と行うべき目標に、確実に予防原則を効果的に実施するために、あらゆる必要な歩みをすべきである。
 
a) 原料の選択や製品の代用・クリーンな生産技術と工程を含むクリーンな生産方法や、社会全体の廃棄物最小化により、発生源で汚染の防止を促進する。
 
b) 長期的結果を含む、かわりの方法の環境的と経済的結果を評価せよ。
 
c) 長期的政策の選択肢が基盤とする判断を改善するために、可能な限り十分に科学的社会経済的研究を促進し、利用せよ。
 
 
国際協定や合意での予防原則の使用
 
オゾン層議定書
 
この議定書締約国は、...技術的経済的な考慮をしながら、科学的知識の発達に基づいてオゾン層破壊物質の除去という究極的目標とともに、オゾン層枯渇物質の全世界的放出を公正に抑制するために、予防措置をとることによって、オゾン層を守ることを決定した。...オゾン層を破壊物質に関する議定書、1987年9月16日、26 ILM 1541。
 
 
第二回北海宣言
 
最も危険な物質により起こりうる悪影響から北海を守るために...、絶対的に明白な科学的証拠によって因果関係が確立する以前であっても、このような物質の投入を抑制するために行動が必要なものに、予防アプローチを向けなければならない。汚染削減を呼びかけた大臣声明*、1987年11月27日、27 ILM 835
* Ministerial Declaration Calling for Reduction of Pollution,
 
 
国連環境計画*
* United Nations Environment Programme
 
海洋汚染の予防と除去に関する政策の基礎として、全政府が「予防行動原則」を採用することを勧告する。国連環境計画15回会議の作業に関する評議会報告
* Report of the Governing Council on the Work of its Fifteenth Session, United Nations Environment Programme, UN GAOR, 44th Sess. Supp No 25, 12th mtg at 153, UN DOC A44/25 (1989).
 
 
北欧理事会会議*
* Nordic Council's Conference
 
そして、...放出と影響とを結びつける因果関係を証明する科学的証拠が不適当、あるいは結論に達しない場合でさえ、損害あるいは有害な影響が生じると信じる理由がある場合、とりわけ、汚染の放出を除去し予防することによって、海洋生態系を守ることを意図した重要な原則である有効な予防アプローチの必要性を、...考慮に入れること...。海洋汚染に関する北欧理事会国際会議。海洋汚染に関する北欧行動計画中の1989年10月18日に合意した最終文書
* Nordic Council's International Conference on Pollution of the Seas: Final Document Agreed to Oct. 18, 1989, in Nordic Action Plan on Pollution of the Seas, 99 app. V (1990)
 
 
PARCOM勧告89/1 − 1999年6月22日*
* PARCOM Recommendation 89/1 - 22 June, 1989
【省略】
第3回北海会議*
* Third North Sea Conference
【省略】
 
 
持続可能な発展に関するベルゲン宣言*
* Bergen Declaration on Sustainable Development
 
持続可能な発展を達成するために、政策は予防原則に基づかなければならない。環境対策は、環境悪化の原因を、先手を打ち、防ぎ、攻撃しなければならない。深刻な、あるいは不可逆的な損害の脅威がある場合、環境悪化を防ぐ対策を先のばしにする理由として、十分な科学的確実性がないことを使うべきでない。ECE(欧州経済委員会)地域における持続可能な発展に関するベルゲン大臣声明*。
* Bergen Ministerial Declaration on Sustainable Development UN Doc. A/CONF.151/PC/10 (1990), 1 YB Intl Envtl Law 429, 4312 (1990)
 
 
第2回世界気候会議*
* Second World Climate Conference
 
 全世界が持続可能な発展を達成し、現在と将来の世代の必要に合致させるために、気候問題に合致する予防的方策は、気候変化により起こるであろう環境悪化の原因を、事前に対処し・防ぎ・着手し・最小限にすること、及び環境悪化の結果を緩和することである。深刻で不可逆的被害の脅威がある場合、十分な科学的確実性がないことを、このような環境悪化を防ぐための費用効果的な対策を先延ばしにする理由として使うべきでない。採用する対策は、様々な社会経済的状況を考慮に入れるべきである。第二回世界気候会議大臣声明(1990)*
* Ministerial Declaration of the Second World Climate Conference (1990). 1 YB Intl Envtl Law 473, 475 (1990)
 
 
アフリカへの越境有害廃棄物質に関するバマコ会議*
* Bamako Convention on Transboundary Hazardous Waste into Africa
【省略】
 
 
OECD会議勧告*
* OECD Council Recommendation
 
この勧告には、勧告の絶対必要な部分である指針が付随している。そこには一部の必要な政策的側面があり、次の内容を含んでいる。完全な情報がないことは、環境に対する重大な害のリスクを緩和するための、予防的行動を排除してはならない。総合汚染防止と抑制に関するOECD会議勧告 − 1991年1月*
* OECD Council Recommendation C(90)164 on Integrated Pollution Prevention and Control - January 1991
 
 
欧州連合マーストリヒト条約*
* Maastricht Treaty on the European Union
【省略】
 
 
国境を越える水路と国際湖の保護と利用に関するヘルシンキ条約
* Helsinki Convention on the Protection and Use of Transboundary Watercourses and International Lakes
【省略】
 
 
環境と開発に関するリオ宣言*
* The Rio Declaration on Environment and Development
 
環境を守るために、予防アプローチを能力に応じて各国が広く採用すべきである。深刻あるいは回復不可能な脅威がある場合、科学的に十分明らかではないことを、環境の劣化を防ぐ費用効果的な対策を先延ばしにする理由として、使うべきではない。環境と開発に関するリオ宣言
* Rio Declaration on Environment and Development, June 14, 1992, 31 ILM 874
 
 
気候変動会議*
* Climate Change Conference
【省略】
 
 
海洋の保護に関するUNCED教書*
* UNCED Text on Ocean Protection
【省略】
 
 
エネルギー*
* Energy Charter Treaty
【省略】
 
 
持続可能な発展に関する米大統領会議*
* U.S. President's Council on Sustainable Development
【省略】
XIV. 連絡先
 
Science and Environmental Health Network
Carolyn Raffensperger
E-mail address -
craffensperger@compuserve.com
Mailing address - SEHN, Rt. 1 Box 73,
Windsor North Dakota, 58424
Phone/Fax - 701-763-6286
 
Lowell Center for Sustainable Production
Joel Tickner
E-mail address - Joel_Tickner@student.uml.edu
Mailing address -  University of Massachusetts Lowell, One University Ave., Lowell, MA 01854
Phone - 978-934-2981
Fax - 978-452-5711
 
学習用資料  
                  訳 渡部和男 2000年3月10日
 この論文は私たちが、環境問題を考える場合に、悪影響あるいは悪影響が現れる恐れを証明しなければならないと考えがちであるが、挙証責任は環境に影響をおよぼす者にあること、さらに予防という考えが世界の流れになりつつあることを示している。引用する場合は原文を参照すること。原文は
http://www.sehn.org/precaution.htmlからダウンロード可能である。また、日本語に翻訳して、資料として使う許可を得た(下記)。
 誤字脱字、意味不明の個所があると思いますが、是非指摘して下さい。
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Dear Kazuo Watanabe,

We would be honored to have you use and translate our materials on the
precautionary principle.
If I can be of help, please let me know.
Sincerely,

Carolyn Raffensperger
Science and Environmental Health Network