有機リン殺虫剤 ・はじめに マウス大脳皮質の神経細胞 |
はじめに有機燐殺虫剤は、農業や家庭・庭・森林・街路樹・公園・公共施設・動物の外部寄生虫駆除などで、非常に広く使われている。そのため自殺目的の使用や不注意な使用に伴う中毒事故が絶えない。その例を見よう (Chaudhry et al. 1998)。マラチオンは比較的毒性の低い有機燐剤であるが、不用意な使用によって20-30才の男性60人が中毒となり、1人が死亡した例がある [1]。1997年にインドで60人が集落の昼食会後3時間以内に、吐き気やおう吐・腹痛を訴え、地域の医療センターに行き治療を受けた。ほとんどの人は治療によって快方に向かい、その日に家に帰れた。しかし、4人の容態は悪化し、意識レベルが低下し、呼吸困難と全身の筋肉の脱力が現れ、次の日に救急病院に移された。そのうちの3人は治療によって1週間後に退院できた。20才男性は縮瞳と発汗・意識障害・低血圧を示し、筋肉の脱力も見られ、四肢の反射が低下した。感覚障害は見られなかった。特に首の屈曲が特に困難で、首をあげることができなかった。入院2日目には呼吸不全を起こし、高次診療のために病院に移された。その後1日で胸郭や首・横隔膜の筋肉の麻痺を起こし、気管切開をされ、人工呼吸を施された。アトロピンとプラリドキシムを投与したが、神経症状や筋肉の状態は回復せず、10日目に心停止となった。その後の検査で、病気は共同体の台所で作られた昼食によるもので、台所に朝散布した有機燐剤マラチオンによって汚染された食物を食べたことが原因であった。死亡した20才の男性は他の人の2倍以上のチャパティを食べたとされている。中毒患者は最初ボツリヌス中毒を疑われていた。誤診により中毒の治療開始が遅れたために、20才男性は中間症候群*を発症し、死亡したと思われる。この研究の著者らは、安全性(危険性?)の教育なしで有機燐剤の無分別な使用が行われることが中毒事故増加につながることを指摘している (Chaudhry et al. 1998)。この例のように、有機燐中毒は一般に食中毒や風邪などと誤診されやいこと、不注意な使用によって中毒事故を起こすこと、低毒性と言われる有機燐であっても死亡事故を招くことが分かる。事故は開発途上国の事故であると無視することはできない。日本でも不用意あるいは不適切な使用によって中毒事故を出している。例えば「依然農薬の散布中の事故は後を絶たず、農薬の用途外使用や、無登録農薬の違法な販売・使用の事例等もみられ、農薬の適正な使用、保管管理の一層の徹底が求められています」というような注意が掲示されている(JA全農やまなし、2002)。また、中毒事故患者を扱っている場合、二次汚染も心配される (Geller et al. 2001)。日本でも有機リンは多量にかつ安易に使用されている現状があるので、有機リン全般に関して毒性を検討する必要がある。フェニトロチオンやDDVPなど個別農薬の毒性については、参考文献Chaudhry R, Lall SB, Mishra B, Dhawan B, A foodborne outbreak of organophosphate poisoning. British Medical Journal 317:268-269 (1998).JA全農やまなし、「農薬の安全使用は農家と消費者を守る」、2002年1月9日現在、http://www.yn.zennoh.or.jp/nouyaku.htm.Geller RJ, Singleton KL, Tarantino ML, Drenzek CL, Toomey KE., Nosocomial poisoning associated with emergency department treatment of organophosphate toxicity--Georgia, 2000. Journal of Toxicology - Clinical Toxicology 39(1):109-111 (2001).
掲示 2003.3.18 渡部和男