フェニトロチオンの生態影響
2000年10月28日作成
 
 
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鳥への影響
 
● ニワトリで遅発性神経毒性に関する研究で否定的結果が見られている[1]。
 
● ニワトリに対する経口LD50は28 mg/kgと報告されている[1]。
 
●フェニトロチオンは高地の狩猟対象鳥に高度に有毒であり、水鳥に毒性が低いことが知られている(急性経口毒性値はコリンウズラで23.6 mg/kg、マガモで1,190 mg/kgである)。キジに対するLC50は、フェニトロチオン処理餌を5日間与えた、次いで投与しない餌を3日間与えた場合、生後2週間の鳥の餌で、450-500 ppm であった[1]。
 
● 急性経口投与によるマガモとキジの中毒兆候:嘔吐(マガモ)・運動失調・羽を落とす・羽をふるわす・落下・流涎・振戦・立ち直り反射消失・強直性痙攣・呼吸困難・縮瞳・流涙・羽をふるわせる痙攣。当予後、兆候は30分の早さで現れ、死亡は通常1時間から4.5日の間に起こった。1匹の死亡は投与後17.5日後に起こった。1才のマガモ(n=8)の24時間後の算出経皮LD50は504 mg/kgであった。観察された兆候は、上記のものと似ている。死亡は投与開始後19-24.25時間の間に起きた[2]。
 
● オリーブ油に懸濁した0.1 mg/kg体重のフェニトロチオンをハト(Columba livia Gmelin)の胃内に、1週間、週2回投与した。この期間の終わりに、血液検査を行い、脾臓細胞を検査した。短期フェニトロチオン投与は、末梢赤血球・ヘモグロビン量・ヘマトクリット・全脾臓細胞数の減少を招いたが、リンパ球減少症と単球減少症と伴に顕著な異染性を伴った、全末梢白血球数増加を招いた。また、実験した鳥で出血時間と凝固時間の両方の延長があった[2]。
 
 
水生生物への影響
 
 
両生類
 
● 卵黄期にカエル(Microhyla ornata)の胚を96時間1 mg/lのフェニトロチオンに曝した場合、発生に影響は見られなかった。3 mg/lへの被ばくは体表の水ぶくれをおこし、5 mg/l以上は異常行動・脊柱の湾曲・色素形成消失・成長遅滞を起こした[2]。
 
 
魚類
 
● 魚が最高レベルの取り込みに達する時間と有機燐残留を保持する程度は、化合物が水中に残留する程度と直接関連する。0.6-1.2 mg/lのフェニトロチオンに曝されたモツゴは、3日後に最も高い体内濃度(162 mg/kg)に達した。フェニトロチオン(4.9 mg/kg)は魚内で4週間より長く残留する[1]。
 
● フェニトロチオンは魚にやや有毒と考えられる。96時間LC50(魚の半分が死ぬ濃度)はブルークトロートで1.7 ppm、ブルーギルで3.8 ppm。温水魚と冷水魚の両方に中程度に有毒である。種々の北米淡水魚に対する96時間LC50も、2-12 μg/lと報告されている[1]。
 
● 魚に対するフェニトロチオンの慢性毒性は低いと考えられている。コイに対する48時間LC50は2.0 mg/lと4.1 mg/lの範囲である[1]。
 
● タイセイヨウサケ(Salmo salar)を様々な濃度の工業品質フェニトロチオンやこの農薬の作業用製剤に7日間、あるいは作業用製剤に2回7日開けて24時間曝した。脳のアセチルコリンエステラーゼ活性はフェニトロチオン濃度が増加するに連れて減少した。回復期間は抑制の量に直接関連し、0.004μl/lフェニトロチオン被ばくからアセチルコリンエステラーゼの回復は1週間以下を要した。アセチルコリンエステラーゼモニタリングを通じてこのような低レベルフェニトロチオン被ばくを検出するためには、サンプルは散布作業後直ちに取る必要がある[2]。
 
● カナダのニューブルンスウィック森林で1エーカーあたり2ないし3オンスのフェニトロチオン空中散布は、散布地区の小川にいる魚に有害な影響を及ぼさないと報告されたという[1]。
 
● ニジマスに対するフェニトロチオンの急性毒性に関する研究で、胚は最も感受性が低く、卵黄嚢を持つ幼魚期は中間で、小魚と成熟した魚は最も敏感であることが知られている。ニジマスに対するフェニトロチオンの毒性は温度上昇とともに強くなる[1]。
 
● スミチオンはコイCyprinus carpioの受精卵の発生に悪影響を与える。受精卵が0.10%と0.01%のスミチオンに曝された場合、孵化率は3.2%と62.9%である[2]。
 
● フェニトロチオンの分解産物はフェニトロチオンそのものより毒性が強い。水生生物に対する農薬分解産物の影響を、受精卵(メダカ)と成魚で検定した。分解産物は溶液のpHを10または14に調節し、次に30℃または-3℃自然の冬の太陽光(広島、日本)に曝して調製した。200 mlの未処理のフェニトロチオン、またはpH 10で分解したフェニトロチオン、pH 14で分解したフェニトロチオン乳剤に、卵を5日間曝した。フェニトロチオン濃度は0.25、0.50、1.0、2.0、4.0 ppmであった。孵化率は未処理のフェニトロチオン溶液では影響を受けなかった。未処理のフェニトロチオン乳剤で異常な稚魚の発生率は0から1.7%であり、pH 10で分解した溶液では1.7から78%、pH 14で分解した溶液では2.4から75%であった。異常には輪状の体軸と曲がったひれがあった。孵化3か月後、生存率はブランクで74%、対照で87%(ツウェーン80添加)、0.25 ppm未処理群で35%、0.5 ppm未処理群で19%、1.0 ppm未処理群で5.5%であり、2.0 ppm以上では生存しなかった。pH 10分解液被ばくの3か月生存率は、0.25 ppmで13%、0.5 ppmで16%であり、2.0 ppm以上では生存しなかった。pH 14分解液では0.25 ppmで19%、0.50 ppm以上では生存しなかった。10匹の成魚群を3種のフェニトロチオン液に被ばくさせた場合、1 ppm濃度48時間被ばく後ほぼ全てが生存し、8 ppmの濃度では24時間で全てが死んだ。pH 10分解液では、2 ppm濃度48時間で3匹が生き残り、4 ppmでは生き残らなかった。pH 14分解液では、2 ppm 48時間で9匹、4 ppm 24時間で9匹、4 ppm 48時間で1匹が生き残った[2]。
 
 
魚に対する致死量以下の影響
 
● 形態解剖的変化:ファトヘッドミノーの腹部の腫れが起こる。1 mg/lに被ばくした幼弱なアトランテックサーモンは膨らんだひれで泳いだ[1]。
 
● 行動変化:いくつかの濃度のフェニトロチオンに被ばく2時間後、種々の対抗行動(追いかける、逃げる、かむなど)が顕著に減少する。快適行動comfort behavior(水をたたく、強く進むなど)は毒物濃度上昇にともなって増加するが、高い濃度で減少する。場所選択の変化が起こった。高い濃度では、一部の魚は位置を維持できず、押し流された。5時間の被ばく後、魚は腹をふくらまして水面近くを泳いだ。運動は非常に遅いので、サケは網で捕まるのを避けようとしなかった。1 mg/lのフェニトロチオンに被ばくしたサケの幼魚は、ブルークトロウトによる捕食をより受けやすかった[1]。
 
● 生化学的変化:致死量以下の様々なフェニトロチオン濃度被ばく後、アセチルコリンエステラーゼ活性は13%から25%阻害された。ニジマスの赤血球や鰓・心臓・血清のコリンエステラーゼ活性は、フェニトロチオン被ばく1時間以内に減少した[1]。
 
● 呼吸への影響:フェニトロチオンに被ばくしたラベオ=ロヒタの酸素消費は、殺虫剤濃度上昇にともなって次第に減少した。被ばくは、48時間LC50よりわずかに高い濃度で、呼吸数と鰓の振幅を増加させる[1]。
 
● 成長への影響:経口投与したフェニトロチオンはニジマスの成長に影響しない[1]。
 
 
甲殻類・水生昆虫類
 
● この化合物は甲殻類と水生昆虫に極めて有毒であると考えられ、水生の虫に中程度の毒性を持つ。淡水無脊椎動物への毒性(48時間あるいは96時間EC50)は、フェニトロチオンは水性無脊椎動物に極めて強い毒性があることを報告している(ガマルス=ファスキアツス)[1]。
 
● 様々な発達段階のタイガーエビ(Penaeus japonicus)幼生を様々な濃度のフェニトロチオンまたはそのオクソン体フェニトロオクソンに曝した。ノープリウスとゾエア期のエビ幼生はフェニトロチオンに非常に抵抗性があり、24時間LC50は1.84 ppmであった。しかし、フェニトロチオンの毒性は幼生段階の進行とともに、特に幼生後に突然増加し、ノープリウス期の約2,600倍の増加を招いた。一方フェニトロオクソンの毒性は幼生段階を通じてほとんど変化せず、24時間LC50は7 ppbであった。フェニトロチオンとフェニトロオクソンに対する幼生のアセチルコリンエステラーゼの感受性はゾエアから要請後までほとんど変化せず、フェニトロチオンとフェニトロオクソンの平均I50(50%阻害)はそれぞれ195と0.015μMであった[2]。
 
● オオミジンコを、20±2℃で、0、0.029、0.042、0.087、0.23、0.44μg/lの濃度のフェニトロチオンに、21日間動的な生活環毒性研究で被ばくさせた。生存や成体の平均長・最初に卵を持つまでの日数の統計的分析は、最大許容毒物濃度限界は0.087と0.23μg/lであり、点推定最大許容毒物濃度は0.14μg/lと推定されたことを示した[2]。
 
 
その他の動物への影響
 
● 他の動物への影響(非標的種):ハチが直接の散布あるいは葉上の乾燥した残留物に被ばくした場合、フェニトロチオンがミツバチに極度に有毒であるとみなせる十分な情報がある[1]
 
● フェニトロチオンはスパイダーマイトspider miteに有毒で、残効性が長い[1]。
 
● フェニトロチオンとホスファミドンの長期影響を、それぞれ1エイーカーあたり6オンスと4オンスとを散布したノースウエスターンオンタリオ森林で、散布1年後に捕食性の甲虫(carabid beetle)とクモ(lycosid spider)で評価した。これらの捕食者の個体群は散布地域で明らかに抑えられていた。この結果は、「殺虫剤の1年間の残留を意味せず、生態系の持続的な混乱を意味する」[1]。
 
● ミュール鹿に対するフェニトロチオンの急性経口毒性は727 mg/kgと報告されている[1]。
 
● 210 g/haの量を散布したフェニトロチオンによりかごに入れたマルハナバチがで直接死亡することが証明された。カナダで210 g/haの空中散布したフェニトロチオンは、かごに入れたハチ(マルハナバチ)は曝された生息地で100%、密な森林の覆いの下で47%が死んだ。散布された地域で餌をあさっているマルハナバチは、非散布地域より有意に高い死亡率をこうむっている。ハチの種類の豊富さは、非散布地域と比較して3倍少ない。集団の回復は2・3年以内に完了すると思われる[2]。
 
 
環境中での運命
 
● 土壌と地下水中での化学物質の分解:予備データは、フェニトロチオンは、殺菌していないごみや砂壌土中で、1週間より少ない半減期で、かなり急速に土の中で分解する。この化合物は砂壌土から粘土にわたる種々の土中で中程度に移動する[1]。
 
● 表層水中での化学物質の分解:23℃、pH 7.5、暗黒中で、フェニトロチオン(10 ppm液)の半減期は、緩衝した湖水と天然の湖水で、それぞれ21.6日と49.5日であることを示している[1]。
 
● 野外実験で(pH 7.0-7.5、19-23℃)、フェニトロチオンの半減期は、モデル水系に1エーカーあたり4オンスの割合でのフェニトロチオンEC剤散布では、1.5-2日であった[1]。
 
● 植物内での化学物質の分解:キャベツと果実に対する薬害は使用量が過剰の場合にのみ起こりうる[1]。
 
● フェニトロチオンは棉やアブラナ属作物・ある種の果実に対して、多量を使った場合、植物に有毒であることが知られている。ある種のリンゴの変種は枯れ葉色になる[1]。
 
● FAO/WHOが行った研究で、イネに散布した32P標識フェニトロチオンの約50%は、24時間で組織の中に浸透する。この期間の終わりにわずか10%しか残っておらず、急速な分解を示している。フェニトロオクソンが形成されたが、フェニトロチオンより急速に組織から消失した。処理46日後に収穫した米は、0.0007 ppmのフェニトロチオンと、1 ppm以下のp-ニトロクレゾールとジメチルチオ燐酸を含んでいた[1]。
 
● オクソンが植物内で形成されるだろうが、それは処理後はじめの数日の間のみ起こり、比率(約1%)で動物より小さい。脱メチル化合物は植物内で少量のみ生じる。緑色植物でフェニトロチオンの半減期は、パラチオンとパラチオンメチルとの値の間の範囲である。すなわち、1から2日の間。オクソンの半減期はわずか数時間と推定されている(FAO・WHO)[1]。
 
●空気中での化学物質の分解:ゴキブリ駆除に使う農薬7種類の空中残留濃度を調べるために、空いている寮の建物で実験が行われた。散布日のフェニトロチオン大気濃度は、3μg/立方メートルであった。散布3日後に、全て0.7μg/立方メートル以下であった。大気濃度は種々の農薬の蒸気圧と良く相関する[1]。
 
 
文献
 
1.Extension Toxicology Network, Pesticide Information Profiles, Fenitrothion, (1995) http://ace.ace.orst.edu/info/extoxnet/pips/fenitrot.htm
 
2.Hazardous Substances Data Bank, FENITROTHION, TOXNET (2000), http://toxnet.nlm.nih.gov/