【文献紹介】
 
有機リン被ばくと子供への長期的神経行動影響
 
有機リン殺虫剤は職業被ばくした労働者で、神経及び行動学的影響を与えることが知られている。米国毒物疾病登録局(ATSDR)のリュッカートらは、家屋内に使用した有機リンが、子供たちに長期的な神経行動学的影響を及ぼしたことを報告した。
 
Ruckart PZ, Kakolewski K, Bove FJ, Kaye1 WE. Long-term neurobehavioral health effects of methyl parathion exposure in children in Mississippi and Ohio. Environ Health Perspect 112:46-51 (2003).
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2003/6430/abstract.html?section=children
 
 
メチルパラチオンは極めて有毒な有機リン殺虫剤で、フェニトロチオンやジクロルボスなど有機リン剤と同じ作用機構、アセチルコリンエステラーゼの阻害作用を持ち、日本でも多くの犠牲者を出したことがある。調査対象になった子供たちが被ばくした当時、米国でメチルパラチオンの住居での用途は禁止されていたが、農業用には許可されていた。有害生物駆除業者はこの有機リン剤が、害虫に効果があること・安価なこと・屋内で残留生があること等のためにゴキブリ駆除に違法使用をした。
 
メチルパラチオンは屋外では速やかに分解するが、屋内では分解が遅い。空気中のメチルパラチオンは速やかに入れ替わるが、カーペットや家具などの表面を汚染した場合の消失は遅い。このため、暖房をつけたりカーペットの清掃をした場合、メチルパラチオンが再び空中に漂うことになる。
 
急性中毒時の症状は比較的分かっているが、メチルパラチオン慢性中毒の影響は良く分からなかった。
 
動物で有機リン農薬は発達中のラットで行動や学習能力を変化させることが知られている。農薬使用者の調査で、人間でも末梢神経機能低下があることが示されている。有機リンに急性被ばくをした集団を数年後に調べた研究では、情緒変化や記憶と運動反射の低下が起こる可能性が強いことが示されている。言語及び視覚的注意集中や視覚記憶・視覚運動速度・順序決定と問題解決・運動の確実さと器用さが、被ばくした者では被ばくしない者より悪いことが知られている。また、持続的な視覚的注意集中と情緒の状態が有意に悪いことも報告されている。
 
米国毒物疾病登録局(ATSR)のリュッカートらは有機リン系殺虫剤メチルパラチオンに被ばくした、ミシシッピー州とオハイオ州の子供もたちの神経行動学的な影響を調べた。
 
子供たちは、はい回ったり地面近くで遊んでいるために、農薬に被ばくしやすいと考えられ、さらに身体が発達中であるために強い影響を受けると思われている。この研究では労働者が仕事で被ばくするより低いレベルのメチルパラチオンに被ばくした子供で、神経行動学的発達を調べた。
 
研究対照集団は、ミシシッピー州及びオハイオ州の保健当局が提供したデータによって決めた。これらの州を選んだ理由は環境データと尿検査データが利用できたからである。家がメチルパラチオンで処理された時、両州の子供たちは6才以下であった。
 
屋内へのメチルパラチオン散布はミシシッピー州では2年間行われ、終わったのは1996年であり、オハイオ州では1991年から1994年に行われた。メチルパラチオンの代謝物パラニトロフェノールは速やかに代謝されるが、オハイオ州の研究では散布1年以上も検出されていた。このことは汚染された部屋からの被ばくが続いていたことを示している。
 
子供たちのメチルパラチオン被ばくふき取りサンプル及び尿中パラニトロフェノールの検査に基づいて決定した。被ばくした子供はミシシッピー州で147人、オハイオ州では04人で、被ばくしなかった子供とそれぞれ比較した。これらの子供は影響が持続しているかどうか調べるために1999年夏と2000年夏(おそらく3-5年後)に検査をした。
 
メチルパラチオン被ばくの影響は短期記憶及び注意集中に関連する検査で見られた。被ばくした子供の親は、自分の子供は被ばくしなかった子供より行動及び運動に問題があると報告している。親が報告した行動問題には不作法や衝動的に行動すること、怒りの問題、悲しむことと内気なこと、他の子供と関係することの問題があると報告されている。最初の検査のさらに1年後に再調査した場合、これらの影響は持続していなかった。
 
この研究以前には数年間種々の有機リンに曝されていた労働者で、記憶及び注意集中の大きな障害を発見したが、その障害は被ばくが終わって12か月後に消失していた。この研究で、被ばくがなくなってから検査までの期間は、ミシシッピー州で少なくとも2.5年、オハイオ州で少なくとも4.5年であった。
 
オハイオ州とミシシッピー州の検査結果に不一致が見られたが、これは散布と検査の間の期間が異なるためと思われる。また年齢差も相違の原因である可能性がある。オハイオ州のどもは年長であり、年長の子どもはメチルパラチオンによる神経行動影響を卒業していた可能性がある。
 
 
この発見は、メチルパラチオンが短期記憶及び注意集中に微妙な変化を与える可能性があること、運動技術や一部行動問題の一因となっているかもしれないことを示している。
 
また。これはメチルパラチオンに限らず、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用がある有機リン殺虫剤の一般的な影響である可能性に注意しなければならない。
 

掲示:2004年 2月16日 渡部和男
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